第19話 現場確認
帝都は城を中心に縁を描くように様々な地区がある。城下町と呼ばれる地区には多くの店が立ち並ぶ商店街である。その周囲に金城家等の有名な家系が住まう一等地居住地区がある。そしてその一等地の周りを囲むように平民達の居住区がある。
そんな居住地区の外側に農耕地区はある。
賑やかな城下町とは違い大変長閑な場所である。一部からは田舎と揶揄されるものの、つむぎにとっては懐かしさを感じる心地よい場所であった。
そんな農耕地区の一角にお目当てのトマト農家が住んでいる。
「おやおやありがたいことです。まさか金城家の奥様自ら出向いてくださるなんて」
突然の訪問だというのに農家の主人は優しい笑顔で出迎えてくれた。
「いえ。うちの……主人がいつもお世話になっておますから」
つむぎはかりそめの奥様としてリヒトの事を『主人』と呼んだ。しかし何故かそれがとてつもなく恥ずかしい。
農夫はそんなつむぎを「おやおや」と呟いて、温かく見守ってくれていた。
「トマト畑ですね。こちらがその畑です」
「まあ」
『ひゃあ』
農夫は、家の裏にある畑に案内してくれた。
しかし、そこはとても畑とは呼べない状況であった。
「ひどいものでしょう?荒らされ方から獣じゃないとは思ってるんですねどね」
畑はそこまで大きくはない。しかしその畑に植っているトマトが全て食べ散らかされている。畑中は踏み荒らされて足跡だらけである。しかし乱暴にもぎ取ったのであろう。ところどころ茎が折られている物まである。食べかけで捨てられたトマトまである始末だ。その歯形から人間、もしくは人型のあやかしだろうと想像がつく。
農夫はしょんぼりと項垂れた。今見ても衝撃が大きのだろう。そんな姿を見てしまっては、つむぎは何としても犯人を捕まえることに貢献せねば、と思った。
「ありがとうございます。少し確認させてください」
「ええ、ぜひお願いします」
農夫は頭を下げ、その場を去って行った。少し寂しそうな背中を見送り、つむぎは自分に気合を入れた。
リヒトのためだけでなく、術師としてもこの事件を解決したい。そう感じたのであった。
『奥様、いかがされましたか?』
「いえ。頑張ろう、と思ったところです」
『奥様。ほどほどに、ですよ?頑張りすぎちゃダメですからね。怪我するとかもっての外ですよ』
あまねに釘を刺され、つむぎは少し困ったように笑った。事件を解決したい気持ちは勿論あるのだが、術師としての実力がないのも事実だ。
ーーそうですね。自分にできる事をしなくてはいけませんね。
温かい人々に温かい環境に、どうしても甘えてしまっている。何かに挑戦してみても、怒られたることはない。きっと許してくれる、と。
いや。きっと許してくれる。
けれど、同時に心配もしてくれている。
だからこそあまねはしつこく釘を刺すのだと、つむぎは分かっていた。それは嬉しくも、もどかしいものである。早く、心配されるだけの存在から、信頼される存在になりたい。
金城家のために、術師として人々のために、そして、リヒトのために。もっともっと、術師の実力を磨かなくてはと感じる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます