第8話 金城家の使用人達

 手荷物を片付けたつむぎは、あまねに屋敷内の案内をしてもらっていた。

 金城家には多くの使用人がいた。まだ朝は早いというのに、皆せっせと働いている。使用人の中には人間だけでなく、あやかしの姿もちらほらと見られた。人間しかいなかった式町家と違う風景に、つむぎは驚くばかりであった。

 そしてもっと驚くべきは、出会う使用人達が皆つむぎを、迎えられた花嫁を心から歓迎していることだった。


「貴方様が奥様ですか!」

『ようこそ、金城家へ』

「我らが救世主!!」

『貴方様を心待ちにしておりましたぁ!!』


中には涙まで流すものがいたほどだ。さすがのつむぎも困惑する。つむぎが困ったようにあまねを見ると、あまねは親指を立てていい笑顔を見せた。


『奥様大人気ですね!』

「そ、そうでしょうか」


何だか違う気がする。そもそも金城家の当主の花嫁だからこそ受け入れられているだけなのだ。そうに違いないと思ったつむぎは首を横に振った。


「これは旦那様の人望ですよ」


しかしあまねは千切れんばかりに首を横に振った。血相を変えた顔が、全力で否定している。


『そんなことありませんって!本当に旦那様は怖い方なんですから!』

「そ、そうなんですね」


あまりの気迫につむぎは頷く事しかできなかった。

 しかしそこまでリヒトが恐れられているとはどうにもつむぎには理解できない。なんせ花嫁に対するリヒトの態度は甘くて優しいばかりだったからだ。と言ってもつむぎもリヒトとはほんの少ししか話せていない。付き合いの長い使用人達の方が、リヒトのことをよく知っている事だろう。

 本当に。

 もし本当にリヒトがそんなに怖い存在なのだとしたら。

 もし身代わりだとリヒトに知られてしまった時、彼はどんな顔をするのだろうか。

 あんなに花嫁を、きよを愛するリヒトの事だ。

 きっと怒り狂うに違いない。

 それを想像するとつむぎはゾッとした。まず命はないだろう。あっさり殺してくれれば御の字かもしれない。そう考えると、こうのんびりしていていいのだろうか、とも思ってしまった。


『奥様はこのまま!旦那様の隣にいてくださるだけで!我々の平穏が守られるのですよ!』

「そうなのでしょうか。何か……他にする事はないのですか?」

『ありませんね!』


旦那様の隣にいるだけ、と言われても困る。今まで使用人のように働くのが普通の生活だったつむぎは、何をして良いのか分からない。暇を持て余すのが目に見えている。

 むしろこの暇を活用して、嘘がバレた時の対策を取るべきではないだろうか。


「あのあまねさん」

『はい!奥様!』


せめて、金城家に有益だと分かれば命だけは助けてくれるかもしれない。術師としての才があったからこそ式町家に預かってもらえたように、金城家でもせめて使用人として生活させてもらえれば。

 そう思い至ったつむぎは、ぐっと拳を強く握りしめた。


「私にも何かできることはありませんか?」

『ん?と、いいますと?』

「あの。私、いつも式町家では家事をしていましたので、金城家でも何かお手伝いできないかと思ってるんです」

『え!?お、奥様……何を!?というか家事!?奥様が実家では家事をしていたんですか!?』


あまねは慌てふためいた。動揺して口をパクパクしている。


「え……どうしたんですか、あまねさん?」


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