『アカイハコ』~アンインストールできないアプリから始まるデスゲーム~

小鳥ユウ2世

1stステージ:開幕、宝探し

1-0:アカイハコ ~始動~

 「アカイハコ」という都市伝説アプリをご存じだろうか。そのアプリは、スマホのインストール画面で検索しても出てこない、幻のアプリと言われている。さらには、アプリをインストールすると幸福が訪れるとも噂されている。

だが、アンインストールすることはできず、中断も許されない敗北すれば即死のデスげームへと招待されるという。

 また、途中であきらめたりアンインストールしようとすれば「お返し」として災厄が訪れるという。


それでも、このアプリをインストールしたいのであれば、突然「アカイハコ」の運営から届くメールに添付されたURLからインストールするしか方法はないとある者は言う。



 そんな都市伝説を知ってか知らずか、そんなわけもわからないメールを開いた男がいた。男に宛てられたメールには、以下の文章が書かれていた。


『拝啓、藤宮 誠 様。 おめでとうございます! 下記URLからアプリをインストールして、幸福を実現しよう! 【アカイハコ運営】』


 宛先主の藤宮は、普通の高校生だった。学校から自宅へ戻る電車に揺られながら、配送業者からの配送届と親からの返信しかないメールボックスをあさっていた際、例のメールが彼の目に留まった。藤宮は、この都市伝説をクラスメイトが話しているのを聞いていて知っていた。彼は純粋なのか、それとも願いに貪欲なのかそれを信じ切る。


「これをインストールすれば願いが叶う......。じゃあ、友達とかもお願いできるのかな? いっそのこと、クラスの人気者でもいいけど」


 藤宮には友人というものがいなかった。ただ、いじめられていたというわけもなく、一人が好きだった。だが、それ以上に友人と過ごす時間にあこがれを抱いていたのだ。その憧れだけで、彼は怪しげなメール文の下に添えられたURLをクリックした。


ホームページ上で

「インストールありがとうございます。インストールまでしばらくお待ちください」

という表記が出ると、すぐにスマホのホーム画面になぜか飛ばされた。


藤宮は疑問にも思わずそのままホーム画面を見ていると、赤い背景に黒い文字で『アカイハコ』と書かれたアプリがインストールされていた。


「これか? アプリの中はどうなってるんだろう......」


 アプリをタッチすると、そこには廃駅の画像が映し出されていた。そして、右下には『参加人数312人』と書かれていた。この人数はインストールした人数だろうかと藤宮は思ったが母数の少なさに疑ってしまった。


「やっぱり、不幸を呼ぶアプリっていう都市伝説だからインストールする人も少ないのかな。なんだか怖くなってきたな......。アンインストールしようかな」


 どうしようかと悩んでいると、すぐに彼の家の最寄にたどり着いた。

藤宮は電車を降りて改札を通ると、それを見透かしたかのように電話が鳴る。

一瞬、スマホのバイブに焦るも藤宮は画面にある緑色のボタンを押した。


「もしもし......」


『初めまして、藤宮誠様。 私はこのアカイハコの運営をしております、キサラギと申します。この度は幸福実現アプリ【アカイハコ】をインストールしていただきありがとうございます』


「あ、はあ......。それで、どうすれば願いが叶うんですか?」


藤宮は興味津々に、相手を疑うことなく話を聞きだす。

電話相手であるキサラギは真摯な姿勢を崩さずに答える。


『話が早く助かります。ぜひとも私とゲームをして、勝ち残ってもらいたいのです。対戦相手は私もそうですが、何よりもこのアプリをインストールしている312名の参加者たちです。ですが、ゲームを続ける上で4つほど注意点があります。


1.私の定めた5つのゲームをプレイしなければならない。

2.それぞれのゲームステージのルールに従うこと。

3.他人にこのアプリを教えない。 

4.第3ステージまで、他の参加者に自分が参加者であることを知られてはならない。 


以上4つのうち、一つでも違反した場合失格となりますのでご注意を。それでは、幸福実現のためがんばってください』


ゲームをするだけで、自分の願いが叶う。そう考えるとごく簡単なことだ。


藤宮も同じように考えていた。なによりも藤宮はゲームが好きだった。

トランプ、リバーシ、チェス......。

パソコンでできるものなら一人で打ち込んでいることが多かった。

いつか友人ができることを信じてやまず鍛錬していたともいえる。


だからこそ、藤宮の腕にはゲームには自信があった。藤宮は意気揚々となりながら、運営管理人のキサラギにゲームの内容を確認する。


「それで、僕はどうすれば......」


『では、説明します。これから皆様には【宝探し】をしてもらいます。期限は3日......。私からアプリを通して、情景写真をいくつかお渡しします。その場所へ向かってください。たどり着いた先にある宝箱の中身を受け取り次第、アプリから私がご連絡いたします。それでは、頑張ってください』



そういうと、電話はぷつりと切れた。

それと同時にアプリのホーム画面には【71:59:59】と時間が刻まれていた。

藤宮は驚きのあまり、手元が狂いスマホを地面に落としてしまう。


「ありゃりゃ、またやっちった。......あちゃー、ガラス割れちゃったよ」


 藤宮は古臭い言動と共にスマホが拾い上げる。スマホのガラス面は下を中心に割れ目が酷くなっていた。だが、アプリは正常に稼働し続ける。藤宮はそのまま冷静になり、キサラギの言っていたヒントとなる画像をアプリの中で探した。

アプリを左にスクロールしていくと、画像ファイルがぽつんと置かれていた。彼は割れたガラスの中それをタッチすると画像が映し出された。写真の中には、目星になりそうな橋がかかっていた。橋は山奥にある吊り橋で、渡る手前で撮られていた。


「特に追記ルールとかはないみたい。てことは、検索し放題なのか。よかった」


楽天的な藤宮だが、他の参加者にしてみれば星の数ほどある同じような風景から一つの答えを導き出すのには時間が足らなすぎると言うだろう。


「とにかく、行動しよう。ちょうど明日から土日だし、探せばいつかたどり着けるはずだ!! よし、やってやるぞ!」



ーーーーーーーー

 


 息巻く藤宮とは違い、仕事や学業で忙しくゲームに参加できないと小言を言う者も現れていく。それもそうである。たった3日とはいえ、目標の場所を探し当てて、たどり着く。その旅路にどれほどの時間がかかるかを考えただけで足のすくむ者もいて当然だ。


「参加したのはいいものの、こんなの無理ゲーだろ......。どれだけ似たロケーションがあると思ってんだ。この運営は......」


参加者の一人、栄野という名の男は、藤宮とは違う画像を確認していた。彼は、会社の窓際で頭を抱え、残業している日常よりもひどい顔になって立ち上がり鞄を持った。


「栄野くん! もう帰るのかね......」


普通のサラリーマンである栄野の上司がひどく冷めた眼差しで呼び止めるも、今回ばかりは彼の心は揺るがない。栄野は、初めて定時で帰る選択をした。彼は深く頭を下げた後、申し訳なさそうに上司を見つめる。


「......お先に、失礼します」


栄野は会社を後にして、エスカレーターの下ボタンを連打する。

焦燥感と罪悪感に押しつぶされそうになる彼の前に開くエレベーターの光はいつになく優しく彼を包み込む。


「ハァ......。もうだめだ。こんなアプリに頼ったってうまくいくわけない! アンインストールしてしまおう」


栄野は震える右手をゆっくりと呼吸して抑えつつ、アカイハコのアプリを長押しした。だが、一向に反応しない。何度も何度も挑戦していると、【本当に?】という文字と共に「はい」「いいえ」の選択肢がくりかえし表示されるようになった。栄野はより怖くなり、エレベーターの端に座り込む。


「どうなってんだ、このアプリは!」


半狂乱になっていると、追い打ちをかけるようにエレベーターが突然止まる。

栄野はさらに取り乱すも、エレベーターの電話マークのボタンを押した。

だが、どこにも繋がらなかった。


「すいませえん!! すいません!! だれかいないんですかああああ!!」



立ち上がり、エレベーターのドアをドンドンと叩くも誰も反応がない。しんと静まり返るエレベーターの中、栄野はまたも孤独に頭を抱える。すると、幸か不幸かスマホが鳴る。


「もしもし! 部長ですか? 先ほどは申し訳ありません! でも、今は助けてもらえませんか?」


『お疲れ様です、キサラギです。栄野様の部長でなく、申し訳ありません』


「キサラギさん!? ああ、この際誰でもいい! 助けてください!」


『それはできません』


キサラギは温和な声色を崩さずに、はっきりと断る。その真意は誰にもわからない。当然栄野にとってはもっと理解できないことだった。栄野は今に泣き崩れそうな声でキサラギに助けを請う。


「どうしてですか!? エレベーターが故障して出れなくなったんですよ? これじゃ、あなたのゲームに参加できなくなる!」


『別に参加者が減るのは想定内の事ですよ? それとも、選ばれたから自分は特別な存在だとでも? 勘違いしないでいただきたい。あなたは私にとってただの参加者の一人。ただ、それだけです。それでは、さようなら』


 電話がプツリと消えるとともに、エレベーターの電気も急に落とされ、あたり一面暗闇に覆われる。栄野はリダイヤルを試みるも、電話履歴にキサラギからかかってきた番号がない。狐につままれたかのようなモヤモヤと、襲い来る焦燥感に恐る恐るスマホのあらゆる場所を開いていく。それを見た彼は正気を失っていく。


「スマホからアプリがなくなってる! それに僕が取っていた写真も、ゲームも!! なにもかもまっさらになってる!! なにがどうなってるんだ!!」


 なぜか栄野のスマホ画面は初期状態に戻っており、インストールしていたすべてのアプリがなくなっていた。件のアカイハコさえも......。

栄野が怯える中、彼の乗るエレベーターは突如に揺れ始める。さらに天井から液体のようなものが入りだし、エレベーターを満たしていく。栄野は混乱しつつも、懸命にエレベーターのドアを叩くも救助の手は差し伸べられない。


「誰もいないのか! 誰か、誰か助けてくれええええええええええええええええええええ!!!!!」


 液体は栄野の首元までたどり着き、果てには頭の上までたどり着く。栄野が必死にもがくも、液体は栄野の身体に絡みつき離れない。体力も呼吸も尽き果て、栄野がエレベーターの中で死体となり浮かぶと、人知れず彼の死体は液体と共に消えた。エレベーターが開くころには大雨が降った後かのような水たまりが床を濡らしているだけだった。


 藤宮も含め、参加者も栄野の勤めていた会社さえも誰も彼のことは記憶に留めることはない。アカイハコはアンインストールのできない呪いのデスゲームのサイン。

そのアプリのホームにはゲームの残り時間と、参加者の人数が更新された。


【1stステージ:宝探しゲーム】 


残り時間:70:48:30 

参加者:311人

失格者:1人




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