閑話

第23話 太陽と忠義

 夕方を迎え、野宿は危険と判断した忠義ただよし太陽たいようの小屋の中にいた。

 

「ふぅ~。歩き回ったけど、収穫なかったね~?」


 太陽が近くの木箱に座ると、忠義も床に胡坐あぐらをかいて座り込む。そして、少し落ち着いてから、忠義が口を開いた。


「いえ、収穫ならありましたよ」


「え?」


 訊き返せば、忠義がハッキリと告げた。


「おそらくですが……我々は監視されています。いえ、というよりも、観察されていると言った方が正しいのかもしれません」


 彼の言葉の意味が理解できず、太陽が首を傾げる。その様子を見ながら、忠義が続ける。


「わたしが思うに、このペンダントが我々の力でもあり、枷なのでしょう」


「それはまぁ、そうなんだろうけどー。それが収穫なわけ~?」


 ようやく理解した太陽が伸びをしながら尋ねれば、忠義は律儀に返事をする。


「いえ、それだけではありません。……アーサー王に該当する人物はおそらくすでに亡くなっているでしょう。そして、それが鍵なのかと思います」


「まぁ、アナウンスでもそう言ってたしね~? それがどう鍵なわけさ?」


「アーサー王伝説がイギリス発祥というのはご存じですか? 古くから愛されている物語の一つで、昨今の日本ではメジャーかつ有名です」


 そう言われて、太陽は深く頷く。


「そうだね~、めっちゃ有名だよね。特にエクスカリバーだっけ? あの武器とかさ、そこらへん凄いよねぇ。不動の人気って感じするよねー」


 太陽も凄くアーサー王伝説に明るいわけではない。それでも、オタク気質な客が店に来ることもあって、多少の知識はある。


「そうですね。アーサー王が少年期に選定の剣を引き抜いたことで物語が始まり、彼が死に、エクスカリバーがあるべきところへ返されたところでこの物語は終わります。至極簡単に説明すればですが」


「それで~? その話がどうかしたの?」


 訊き返す太陽に向かって、忠義が答える。


「では、この戦いの主催者が言うところの?」


「そう言われてみれば、ぼく達……知らないね?」


「そうです、問題はそこです。伝承においての円卓の騎士は、アーサー王のもとに集いし者達です。ですが、我々は……そもそもアーサー王の顔も名前すら知らないのです。その状況でなにゆえ円卓の騎士を名乗れと言うのでしょうか?」


 言われてみればその通りのため、太陽は素直に感心して拍手を送る。だが、忠義の顔は晴れない。


「だからこそわたしは知りたいと思うのです。――彼女達がアーサー王とする人物のことを」


 その眼差しは鋭く、それでいてどこか影があった。

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