第2話 死にました

 カーテンから覗く夕陽を眺めながら、現実を噛み締める。美嗣はもはや空腹も感じなくなってきた。ここ1ヶ月は水と千切りキャベツしか口にしていない。家賃の支払いは何とかできているが、光熱費などは一月遅れてしまっている。


 先月のカード支払いの限度額が越えてしまったのが原因だ。新しく出た武器に注ぎ込んだのと予約していたグッズ購入、コラボ商品のコンプに吹き飛んでしまった。


 今までもギリギリの生活をしていたが、光熱費が滞ってしまうのは初だった。月19万の給料では過度な推し活は破滅へ繋がってしまうらしい。


 美嗣は何とか体を起こして冷蔵庫へ向かおうとする。朝からずっと寝た体勢のままだったので首や腰が痛む。


  体を縦にすると立ち眩みと吐き気が込み上げてきた。痩せ細った手足に力を入れてワンルームを出て廊下にある冷蔵庫を開ける。


 中には調味料以外なにも入っていなかった。スーパーで大量買いしたキャベツパックもなくなり、命の綱だった海苔とチーズもなくなっていた。


 今から買い物に行くことは出来るが、お金がないのだ。給料日まであと2日。それまで何とか耐えなければならない。


 美嗣はコップ3杯の水を飲んで腹を満たす。人間は水を飲んでいれば7日間は何も食べなくても死なないそうだ。


 この一月は頭がふらふらして仕事もミスばかりだったが、断食切り詰め生活も残り2日で終わりだ。給料が入ったら少しはまともな物を食べよう。

 安くてもいいから肉を食べたかった。


 そんなことを考えながら部屋に戻ると鑑が目に入った。そこに映る姿は20代とは思えないほど顔色は悪く、痩せ細っていて生気がなかった。

 まるで幽鬼ゆうきのようだ。


 いくら推し活が楽しいとはいえ、今回は貢ぎ過ぎたと反省している。起きていても体力を消耗するだけなので、横になって眠る事にした。


 次の日の朝、仕事へ向かおうと起き上がった時、今まで感じた事のない目眩に襲われて、そのまま倒れてしまった。


  意識が朦朧として体に力が入らず、声も張り上げられなかった。ぼーとしているうちに意識を失い、美嗣はそのまま息を引き取ってしまう。


 享年20歳。死因は栄養失調による衰弱死(推死おし)であった。




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