第25話  複数の違和感

 黒塗りの木造家屋が軒を連ねる土色の道を私たちは進んでいます。

 街の中心にある広場に差しかかった時でした。


「うわぁ……」


 隣を歩いていた、目元を仮面で隠しているマウさんが立ち止まります。

 彼女の視線の先には一際背の高い建物。

 二階建ての建造物ばかりの街中で、それは異彩を放っていました。


「教会がここにも……」


 時計塔が併設された石造りの巨大な教会。

 白塗りで新しい外装の建造物は、明らかにここ最近造られたもので。

 だからこそ、おかしいなと思ったのです。


「あ、ごめんね! シャリーネちゃんの事を悪く言った訳じゃないよ!」

「いえ、それは特に気にしていませんけど。そんなに教会が珍しいのですか?」

「……ここじゃ言いにくいし、歩きながら話そうか」


 周囲の視線を気にしながら、マウさんは教会が見えている街の西側から離れるように東へと歩いていきます。


「ドラギルトにもね、昔から教会はあるんだよ。規模や力は無い、小さな町や村にほそぼそと存在しているぐらいのやつが」


 坂道を登りながら振り向き、その視線は遠ざかる教会へと。


「でも、街の規模が大きくなればそれだけ帝都との繋がりが大きくなる。辺境とはいえ、鉱山という莫大な資源を管理しているこの街の中心に、あれだけ大きな教会を造れる事がそもそも異常なんだよ」


 教会を見つめながら、そう吐き捨てました。

 ですが、その態度に私は違和感を覚えます。


「もし、仮にですけど。マウさんの住む帝都であのような教会を造るのだとしたら」

「皇帝の権威を脅かし、禁を破った逆賊として吊るし上げられるだろうね。関わった一族、その全てを」


 淡々と、それが当然であるかのようにマウさんは答えました。


「……根絶やし、ですか」


 マウさんの横を通り、先へ。

 夕暮れの空、土と火薬の臭いが漂う街の中を進みます。


「何か言いたそうだけど」


 隣に駆け寄ったマウさんが私を覗きこみました。


「そうですね、まずあそこの」

「うわぁっ!?」

「きゃっ!?」

「おっと!」


 衝撃。

 言葉は途中で途切れ、後ろに倒れそうになった私はマウさんが伸ばした手に抱きかかえられました。


「シャリーネちゃん、大丈夫?」

「……おかげさまで、私は」


 視線を前に。

 ローブを纏って顔を隠した女性が尻餅をついています。


「君、大丈夫?」

「……え? わ、わわわわひゃぁっ! だ、大丈夫っす!」


 すかさずマウさんが彼女に手を差し伸べますが、とても驚かれている御様子。

 今のマウさんは仮面をつけた麗しい男性に見えてもおかしくないので、当然かもしれません。


「ご、ごめんなさいっす! えっと、その……わたしは先を急いでいるのでぇ!!」

「あ、ちょっと!?」

「……?」


 大慌てで女性が私の横を通り過ぎ、坂を下っていきます。

 その時、確かに、微かながら私は違和感を感じたのですが。


『ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッッッッ!!!!』

「……うぅ、うるさい」


 街の奥から変わらず響く爆破音、それに全てをかき消されてしまいました。

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