第10話 死神は招かれる
今のワタシは人間なのか死神なのか。
どちらであれ、少なくても人間界に追放されてからロクな事がありません。
あ、訂正します。
シャリーネと出会ってからロクな事がありません。
兵士に囲まれたり、変な男へ投げられてから抱きつかれたり、動物に襲われたり、スライムに呑み込まれたり、湖に落ちたり、服を捲られたり……。
慕ってくれていると思いますけど、ワタシの扱いやっぱり酷くありません?
「こ、こちらです……!」
また森の中に逆戻り。
ワタシたちの前を、身も衣服もボロボロの女性が進んでいきます。
急に現れた彼女に驚きはしたワタシですが、無害な人間とわかれば怖くないです。
ボサボサの茶色い髪。
肌に付着した泥。
切り刻まれ破かれたボロ布当然の衣服には乾いた血の色。
靴は無く素足で、足も手も爪の先が黒く変色しています。
痛そう。
「お願いします! どうか、どうか村を…お救いください…!」
小走りで進んでいた女性はワタシたちに振り返ります。
確かホーネストと名乗った気がしますけど人間の名前を覚えて得があるとは思えません。
どうせ死んだら天に送ってサヨナラなのだから。
司祭の魂を回収できずに怒られ追放されたワタシですが、そもそも魂に優劣をつけるのがおかしいと思うのです。
死んだらみんな一緒なのに。
まあサボっていたから追放されたんですけどね。
なんか納得いかなくて。
「はい、お任せください」
ワタシの隣を歩くシャリーネがニコニコ笑顔で答えました。
なんていうか、正に聖女の鏡って感じになっています。
けどワタシは今までの凶行の数々を絶対に忘れませんから。
「そんなに安請け合いして、大丈夫なんですかぁ?」
お人よしと言うか、こういう方って簡単に利用されそうなんですよね。
まあ、ワタシもそれに当たるかもしれませんけど。
「これは私の仕事ですから」
前をジッと見つめたまま返事が戻ってきました。
襲われた村を救うのが聖女の仕事なんですかね。
人間界の事情は複雑な気がします。
「ホーネストさん、村の名前をお聞きしてもよろしいですか?」
「……は、はい。えっと、その……ね、ネフィル村です! は、はやくしないと!」
「……ありがとうございます」
人間は村にも名前をつけるみたいです。
ホーネなんとか……えっと、ボロボロの女の人は焦ってるのか、どんどん足が速くなっていきました。
◆
また森が開けました。
日は落ちかけ、夕暮れです。
森の中にある村。
そこはまあ、なんていうか――。
「おお、ホーネストおかえり!」
「見ない顔だなぁ、客人か?」
「偉い別嬪さんだねぇ」
「嫁にしたいぐらいぜガハハ!!」
――とても、栄えていました。
「……え、あれ?」
彼女はとても困惑しています。
「あのぅ……ワタシたちは何を助ければ良いんですか?」
危機感の全く感じられないこの状況に、思わず聞いてしまいました。
「この村をです!」
「えぇ……」
凄く平和なんですけど。
むしろアナタだけボロボロでとんでもない事になっているんですけど。
一番助けなければいけないのはアナタでは?
「……モルテラ様、とりあえずお話を聞きましょう。ホーネストさん、貴女の家に案内してもらってもよろしいですか?」
「は、はい……こ、こちらです」
顔を俯かせた女性は活気溢れる村の中に入っていきます。
「シャリーネ、なんかおかしくないですか?」
「モルテラ様……」
何かシャリーネにまで驚いた顔で見られました。
え、これワタシがおかしいんですか?
「……すみません、少し確かめたい事があります。ですが、お気をつけて。私から決して離れないでください」
「はあ」
凄く深刻そうな顔をするシャリーネの横に並び村の中へ。
おそらく、100人いかないぐらいの村だと思います。
夕方だというのに外に全員出ていて、動き回っていました。
人間ってかなり元気ですね。
女性の家に着きました。
はじめての人間の家は思ったより普通でした。
「す、すみません……わたし混乱しているのでしょうか?」
「いいえ、まずは落ちついてください」
女性は青白い通り越して白い顔になりました。
うーん、なんか違和感。
「そ、そのこれ……質素ですが。ご迷惑をかけてしまったお詫びです……」
「……ありがとうございます」
「おおっ!!」
それはお皿に入れられた、質素とは程遠い綺麗なスープでした。
人間界の食べ物!
そうだ、ワタシ人間になったんだから食べられるんだ!
「や、やっぱりおかしいのでちょっと村長に会ってきます!」
そわそわした様子で女性は飛び出していきました。
家の中に残されたワタシとシャリーネ。
テーブルに乗ったお皿の中にあるスープ。
シャリーネは何故か手をつけません。
なるほど、聖女だからワタシより先には飲まないという事ですか。
「やっぱりなんかおかしいけど、とりあえずこの美味しそうなスープを貰いましょうか。せっかくの貢物なんですし!」
そうしてワタシがお皿に手を伸ばそうとして――。
「っ!? いけませんっ!!」
――振り下ろされた鈍器。
「ヒィッ!?」
テーブルごと全てが粉砕されます。
少し、指先にかすりました。
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