聖女ですけど司祭様にデスサイス振り下ろしたら追放されました

ゆめいげつ

第1章  聖女と死神

第1話  聖女と神託

「……ハッ……ハッ……!」


 大聖国ルーチェの大聖堂を私、シャリーネ・ルーチェは大急ぎで走っています。

 いつもなら決まり事にうるさいお爺様たちが出会いがしらにありがたい説教をしてくるのですが、今日はそれがありませんでした。


 何故なら今、私の義理のお父様であるゴルザード・ルーチェ様が病で死にかけているからです。

 国一番の聖人であるお父様の元には、お姉様たちやお爺様たち、それと近隣国家のなんか偉い人たちが集い、悲しみにくれていたのでした。


 私もその場に同席したかったのですが、平民の出であり第7聖女という末席の私がいても空気を悪くするだけです。


 なので礼拝堂で一人、神に祈りを捧げていました。



『……シャリーネ……聖女シャリーネ、聞こえますか?』



 その時でした!


 なんと、私に初めて神託が下ったのです!


 心に直接響くその声は神秘的でいて、少女のように可憐な声でした。

 嗚呼……この世界が悲しみに沈む窮地に、私の祈りが通じたのだと胸の中に感動が溢れます。


『残念ですが……アナタのお父様はもう長くありません……』


 次に聞こえた言葉に私は悲しくなって下唇を噛みしめました。痛かったです。

 ですが、神の声は絶対。

 それがどんなものでも受け入れなければいけないと、お父様から教わってきたのでなんとか口の中に血の味が広がる程度ですみました。

 

 こんな不甲斐ない私をお姉様たちに見られたら、きっと大聖堂の屋上から突き落とされていたでしょう。


『……ですが、シャリーネ。アナタなら救えます』


 ――衝撃が走りました。


 私なら、お父様を救える。


 神は、そう言ったのです。


『これを使いなさい』


 ステンドグラスから差し込む光が輝いて。

 そこから現れたのは神秘的に鈍く光る、一本の大鎌でした。

 

 刃の部分にはルーチェの象徴である太陽と二匹の鳥のエンブレム。

 柄には古代ルーチェ文字でなにやら難しい言葉が彫られています。


 ――それは正に、神器と呼ぶに相応しいものでした。


『名をモルテラ。この、モルテラ・デスサイスで死に行く彼の魂を救い天界へと導くのです』


 そんな事が許されて良いのでしょうか。

 

 それはつまり、私が……!



『ワタシの、神の代わりになるのでぇぇっ!?』


 神の遣いになれるという事ではありませんか!


 大鎌を強く握りしめた私は全力ダッシュで走り出しました。


『えぇちょっと!? まだ話が途中なんですけどぉ!?』


「安心してください神よ! このシャリーネ、全てを理解しました!」


 そもそも、こんな私にこれほどの大役を与えてくださっただけでも奇跡。

 これ以上、神様に負担をかけてはいけません。



「おとうさまぁっ!」


 高く、荘厳で、美麗なその大扉を私は蹴り破りました。

 黄金色の装飾のベッドに眠るお父様が、それを囲むお姉様たちが、その後ろにいるお爺様たちが、それとよく知らない偉そうな方々が一斉に、私を見てきました。


 大勢の方に見られるのは恥ずかしいですが、今の私は神の遣い。

 恐れるものなど、何もありません。


「神の名の下のにぃっ!」


 大鎌、えっと、モルテラ・デスサイスを構えて、私は駆け出しました。

 不敬かもしれませんが、呼びにくいのでデスサイスにします。


「その魂、頂戴いたしまぁぁぁすっっ!!」


 ベッドの上で驚いた顔をしていたお父様に、私はデスサイスを振り下ろしました。

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