『JEM』ばんがい(Ver.足立):いいわけ/777字練習

 同級生の片岡は、ある日突然俺にとんでもない家庭環境をカミングアウトした。

 なぜなのかわからない。

 そんなに仲がいい訳ではなかった。

 でもその後からあいつは俺になついて絡んでくるようになった。


 今日もきっかり始業の15分前。

 片岡が教室に入ってくると、あちこちから声がかかる。

 典型的な人気者。明るくて、気が利いて、誰にでも優しい陽キャの中心核。

 俺は一人が楽で、それなりの人付き合いはあれど似た者同士、気が向いた時しか絡まない、教室の陰にひっそりと存在しているタイプだ。

 孤高を気取っている訳でも不幸を背負ってる訳でもない。そんな性格なだけだ。

 俺たちは全然似たところなんてない。


「足立!」

 飼い主を見つけた犬のように、目を輝かせて片岡が走ってくる。

「これ面白かったよ。あ、足立が好きそうなの俺もみつけたんだ」

 そう言って顔全体で笑いながら、貸していた本とお勧めの本を重ねて差し出した。


 誰にでも向けた笑顔。

 その本はきっと俺に合わせて探したもので。

 ……それは誰にでも一緒で。

 片岡は、ただ皆に嫌われないように、うまくやれるように、いつも術を探している。

 こいつの生き様は、言い訳だらけに思えた。誰にもバレてはいけないと、善良の仮面を被って。


 じっと片岡を見つめる。

 俺は、こいつのこういう不器用な所が嫌じゃない。

 いいや、言い訳だらけの世界で必死に生きてる片岡には、言い訳なんてしてはダメだろう。


「そんなに合わせようとしなくても、俺はお前のこと好きだよ、太一」


 教室の騒めきと予鈴の音に阻まれて、その言葉は聞こえたのか。っていうか、なんてこと言ったんだ。伝わらなくていい気がしてきたけど。


 ―――がしっ。

 タックルの勢いで抱き着かれてよろめく。

 まるで全力で飛び掛かる大型犬さながらだった。ひ弱な俺はもう少しで倒れそうで、正直今支えられてる。


 まぁ、馬鹿で臆病なわんこが可愛いのは、言い訳できない。

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