8月13日。世間ではお盆に入り始めた。

伊豆奈の家もお盆休みには帰省をするとのことで、僕は家でゆっくりしていた。ちなみに、自分の親や家族も帰省したが、僕は時期が時期なだけあって家で勉強するように促されていた。

パソコンを扱う練習を小一時間ほど行い、しばしの休憩を取った。


「……伊豆奈、大丈夫かな…」


まあ、あいつらむかってるし、大丈夫だろう。



秋田某所。俺は数人を連れ、遠くの地に降り立っていた。

目の先には、一人の女子高生。名前は浜宮伊豆奈。俺らのボスの彼女であり、ボスは過保護なまでに彼女のことを守ろうとする。


「…なあ、この狂った正義感は、いつまで振りかざせばいい?」

「しらん。死にたくなけりゃ、無理矢理自分のことをだませ」


それだけ言って、俺はまた目の前の物事に集中した。



さて、今日は何人葬らねばいけないのだろうかな。



その夜。僕は例の山へと向かっていた。

頂上に向かう。足元の地面は何の違和感もない。掘り起こされた、ということはないらしい。


「よかった…。さ、他の場所はどうだろう」


それから、僕は他の地点も確認しに行った。中には、少し緩く掘り起こされた形跡があるものがあったりして、潮時をそろそろ考え始めていた。


ふと、別の場所から足音が聞こえた。


「…誰だ?」


ぽつりと呟き、そろりそろりと近づいた。


「……っくそ!どれもこれも…証拠の一つもありやしない!!!!」


そこには、大人の男性が一人。白骨を蹴り上げていた。

けり上げたのは頭蓋骨。蹴り上げた頭蓋骨が、あろうことか俺の足元に転がってきた。


「ん?お前、そこで何をしてる!」

「…ち、運がない」


僕は大人しく、その場から顔を出した。

日はとっくに沈んでいるが、下では町内会による盆踊りの明かりが届いており、彼が今何を行っているのかは普通に視認することが出来た。


「…警察だ。今は出勤してないが、構わん。今ここで、この事件に終止符を打つ」

「…はて?どういうことでしょうか」


僕は、驚いた。何を言っているのだろうか。


「はて?はっ!よく言えたな。お前、覚えてないなんて言わせないぞ」

「いやいや、僕、何もやってませんよね?強いて言うなら…ああ、あなたが蹴った害虫を駆除したことですか?立派な人間さんは、他の生き物の命にまで目を向けるって聞きましたけど…」


僕が話をしているだけなのに。その警察はみるみる顔を青くしていった。


「…まずいことだとは、わかってるんだろうな?」

「え?ああ、あなた方の人種だと、こういったことですぐに捕まえますからね。困ったもんですよ、日本人の大部分がそんな感じですから」

「…お前!!!!!!!」


彼は何の脈絡もなしに殴りかかってきた。振り上げたこぶし。僕は思わず、胸元のスタンガンを取り出し


「うがっ!」


バチっと音を立て、彼が倒れた。


「ふぅ~。持っててよかった~」


僕は彼の腰に巻かれていた銃を取り出した。

やはり、警察の銃はいい。整備がかなりよく施されてる。


今回も、なんのダメージもなく引き金を引くことが出来た。

爆音は、太鼓に上手くかき消された。


数分後に、僕が招集をかけた二人がやってきた。


「それ、運んでおいてね」


それだけ言うと、彼らは黙々とそれを車に詰め込んだ。

ふと、何かが落ちているのが目に入った。手帳型の、何かが赤く染まって放られていた。

手袋をしたまま拾い上げたそれは、彼の警察手帳だった。


「…なんだ、別に対して要らないや」


捨てろという気力も湧かなくて、それを僕は放り投げた。丁度詰め込んで彼らが帰ったから、僕もそろそろ家に帰ろうと思った。

放り投げたそれから、幸せそうな家族写真がはみ出ていた。


家に帰り、風呂に入るのも面倒くさくなり、自室に直行し、ベットにダイブした。

頭の中では盆踊りのために叩かれていた太鼓の音が復唱されていた。あの肉塊の家族は、この盆に先祖だけを見送るのか。はたまたあの肉塊ですらも見送るのかは、僕は知る由もない。

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