2日目 午後

海の家にて、僕は焼きそばとポテトを買った。目の前でソース焼きそばを作るいい匂いを嗅ぎながら海を見渡す。

辺りには真っ黒に焼けた軽そうな青年たちがサーフボード片手に仲間と話したり、家族連れのような団体が持参した昼ごはんを広げて食べたりしていた。


「要注意は…あれと、あれと…」


指を指すその先には、体つきが良かったりする所謂いい女に入る部類の女に手当たり次第声をかける男が一人、また一人といた。


「お兄さん、お待ちどうさま。焼きそばと、ポテトね」

「ありがとうございます」

「彼女さんにいい思い出が作れたらいいねぇ」


僕は「そうですね」といいながら、なぜそれを知っているのかと少し疑問に思った。

そんなことを考えながら、僕は伊豆奈の元へといった。


「伊豆奈。お昼買ってきたよ。焼きそばとポテト」

「本当!?」


僕はコクっと頷きながら箸と焼きそばを手渡した。


「美味しそー!いただきま〜す!」


持ってきた椅子に座り、伊豆奈はキラキラした目で焼きそばを頬張った。


「潮風を感じながら食べる焼きそば…美味しい〜」

「ソース焼きそばがやっぱシンプルで美味しいね」


「わかる〜!」と言いながら伊豆奈はポテトを二本程食べた。

僕らが楽しく昼ごはんを食べていると、先程見た男らがこっちにやってきた。


「ねえ君、一緒に遊ばない?」

「一緒にみんなでビーチバレーやろうよ」


男らはそう言って伊豆奈の肩に手を回した。

伊豆奈はそれをすぐに振りほどいて


「いやです。今、彼氏と一緒なんで」


と言って、その肌を僕に押し付けてきた。


「え〜、そんな根暗なんかより、俺らのほうがずっと面白いよな?」

「そうそう。やっぱさ、俺らみたいな陽キャにしといた方がいいって」


またしつこく、彼らは伊豆奈の腕を掴んだ。

そろそろ、やってしまおうかと思ったその瞬間だった。


「だから!嫌です!」


と言って、彼らを振りほどき彼らを押して遠ざけた。


「うわっと!」

「危ないじゃん君〜。危うくけがさせかけたんだから、大人しくついて来いって…」


そう言って伸ばす手を、僕は払った。


「あ?なんだお前」

「あの、いい加減にしてください。せっかく彼女が勇気を出したんです。今すぐどっかに行ってください」

「は?お前みたいな陰キャに何ができるって…」


僕は、彼の伸ばしてきた腕を掴み、万力を入れ、握った。


「痛っ!」

「ね?早く離れてください」


彼らはそそくさとどっかに消えていった。


「ゆ、侑斗くん…」

「大丈夫。伊豆奈のことは、僕が守るから」

「う、うん…」


そういうと、真っ赤になりながら焼きそばを一口食べた。


「…嘘は、つかないでね」


伊豆奈はそういうと、僕の肩に寄りかかってきた。

一瞬驚いたが、僕はこくんと頷き


「もちろん。一生守るよ」


そう返事した。

安心しきったのか、ふわぁぁぁぁ…と大きな欠伸をすると、伊豆奈は次第に寝息を立て眠ってしまった。

右肩からふわりと香る伊豆奈の匂いが潮風と手を繋ぎ、夏色に彩られていった。

いろんな季節の伊豆奈を見られるけど、僕は春の伊豆奈ほど好きな伊豆奈はいないだろうなと思った。

そんな感じに、僕は伊豆奈のことを考えてすごしていると、いつの間にか日がかなり傾いてきていた。


「…んにゅ…ふわぁぁぁ…」

「おはよう伊豆奈」

「うん…じゃなくて!今何時!?」


僕が時計を確認すると、時計は4時を指していた。


「あ~あ~…結構寝ちゃったや…」


伊豆奈はそういうと寂しそうな顔をした。


「むぅ…起こしてよ~」

「ごめん、伊豆奈が可愛くって…そうだ、最後にもう一回少し泳いで戻ろうよ」


伊豆奈は「うんっ!」と元気よく返事して流れるように浮き輪を装備した。

「早く早く~!」と元気よく言いながら前を走る伊豆奈を追いかける。傾いた日が僕らをロマンチックに照らしてくれていた。


「うわ!冷た~い」

「さ、乗って」

「うん!出航~!」


伊豆奈は元気にそう言ったから、僕は朝より早いスピードで泳いだ。



「あ~楽しかったぁ~!」


あの後、結局30分ほど海で遊んで、僕らはかたずけをして旅館へと戻っていった。

浮き輪やブルーシートなどを洗ってから、僕らは浴場に向かった。


「じゃあ、いつものここで!」


着替えを手に持ちながら明るくそういう伊豆奈を見送ってから、僕も浴場へと入った。


シャワーから何からお湯というお湯が日焼けに刺激として働いて、ヒリヒリした体で風呂を出る羽目になってしまったけれど、伊豆奈と楽しい思い出が作れたならそれでもいいと思えた。

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