おうちデート 1

「おっ邪魔っしまーす!」

「はい、いらっしゃい」


全ての重圧が解けてすぐの土曜日。伊豆奈が僕の家にやってきた。

チャイムもなしにやってきたが、僕がしなくてもいいと言っておいた。


「あら、いらっしゃい。ゆっくりしていってね」


母さんからそう言われた後、僕らは僕の部屋に向かった。


「お〜。相変わらず綺麗な部屋」

「伊豆奈の家もだろ。伊豆奈に比べればまだまだだよ」


ポッと頬を赤らませ「そんなだよ〜」と否定する伊豆奈はすごく可愛かった。


「…って言っても。おうちデートって何するのさ」

「ん〜とね。わかんない!」


まあ、そんなこったろうとは思ったよ。


「…じゃあ、とりあえずゲームでもする?」

「うん!そうする!」


僕の提案で、最初はとりあえずいつでもきていいように買ったパーティーゲームをやることになった。

それも結構体を動かす感じのやつ。伊豆奈はものの1時間でヘトヘトになっていた。


「はあ…はあ…足、動かない…」

「休憩する?」

「…」


何も言わずにフルフルと首を振った。そして、またリトライボタンを押した。

コントローラーを両手に一つずつ持ち、パンチをするように腕を振るとゲーム内のキャラの腕が伸び、そのパンチを駆使して相手をノックアウトするゲーム。伊豆奈は今の所20戦0勝だった。

それでも一生懸命に腕をふり、全力で体を動かし全力で悔しがる姿はもちろん可愛かったが、それと同時に美しさも感じた。いつもとは違う魅力。当然、興奮しないわけなかった。

戦いは50戦まで行い、結局伊豆奈が勝つことはなかった。


「もー無理!」


と、伊豆奈が投げ出す形で終わった。


「侑斗くん強すぎ…」

「コツ、教えてあげようか?」

「むぅー!いい!」


と言って頬いっぱいに空気を溜め込んでそっぽを向いてしまった。

こうなると何か機嫌が良くならない限りこのままなのを知っている俺は、休憩中の伊豆奈に「飯作ってくる」と言って下に降りていった。


「母さん。台所借りるよ」

「どうして?」

「ご飯。伊豆奈と、俺の」


そういうと、母さんはにやにやとして


「何?料理できるところ見せたいの?」

「そんなじゃないって」

「くぅ〜!甘酸っぱいね〜、学生よ!」


それならと言って台所を開けてもらった俺はカルボナーラを作って持っていった。


「…?いい匂い…あ!」

「はい、伊豆奈。ご飯にしよ」


ブンブンと首を勢いよく縦に振った。その様子に笑みを浮かべ、僕らは作ったカルボナーラを食べた。


「ん〜!おいしー!!!侑斗くん料理上手いねー」

「そんなことないよ。レシピ通りに作ってるだけ」


そう言いながら、僕も一口。

今回のはなかなかうまくできた。と自負できる仕上がりになっていた。

ご飯も食べ終わり、休憩しながら次は何をしようかという話をしていた。


「どうする?ボードゲームでも…」

「ゲームはやだ。また負けるもん」

「…じゃあ、何する?」


「ん〜」と考え込んだ後、伊豆奈は大きなあくびをした。


「眠いの?」

「う〜ん…でも寝たくないの…」

「無理はよくないよ?」


それでも伊豆奈はフルフルと首を振って


「やだ。せっかく侑斗くんと2人でいるんだから。もっと…起きてたい…一緒にいたいの」


とはいえ、伊豆奈はすでに限界に近いところまで来ている。


「…じゃあ、昼寝しよ。一緒に」

「え?いい、の…じゃなくて、やだの。起きてたい…」

「大丈夫。逃げたりしないから」

「…わかった。ただ、その代わりに…」


眠気を通り越し、半覚醒状態の伊豆奈がよろよろと寄ってきて

ぎゅっと、僕を抱きしめてきた。


「!?!」

「こうやって、ぎゅーってしながら寝よ?」


拒否権があったとしても、きっと僕は使わない。僕はその誘いに乗っかり、2人で抱きしめ合いながら横になった。

「…すぅ」と寝息を立てているのを確認した後、手探りで一枚毛布を手に取り、僕らの上にかけた。


「ふわぁぁ…僕も、寝よっかな…」

「…えへへ…しゅき…侑斗くん…」


不意打ちで食らったその言葉に心臓を跳ねさせながら、次第に僕も眠りについた。



「侑斗?お菓子持ってきたんだけど…」


コンコンとノックをしたものの、中からの反応はない。

あれ?どうしたんだろう。


「侑斗?どう…まあ」


ガチャっと扉を開けると、幸せそうにハグしながら眠る侑斗と伊豆奈ちゃんの姿があった。


「…ふふっ。おやすみなさい」


少し崩れた毛布をかけ直し、私は部屋を後にした。


「…嬉しい反面、なんか、寂しいものね」


この17年間と少し。立派で、自慢の息子に育ってくれたことに素直な喜びと。

こうして、このまま家を出ていってしまうのかな。なんて、ちょっとした寂しさを覚えながら、夕飯の仕込みを始めた。


「…今日、赤飯炊きましょうか」


素直に送り出すために。今日はパーっとご馳走を用意しなくっちゃ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る