第8話 猫とゴミ箱

 日が上り時間的には昼前ぐらいに拠点であるジジイの家に帰ってきた。起きてから何も食ってなかったので早めの昼食を摂ろうと、野菜を採りに畑へ向かう。しかし…


「あああ!畑が荒らされてる!1日空けただけでこれかよ!あのクソ緑共か!?猪か?!ぐぬぬぬぬ…」

 

 栽培物の大半が、踏まれ、折られて、潰されており、見るも無残な状態に。拳を握りしめ、憤怒の相で地団駄を踏むが、この姿では愛らしいだけだ…情けない…

 この体のおかげで耕すのは楽だが育成には時間が掛かる。それにジジイの見様見真似でやっていたので、同じ様に一から育てられると思うのは難しい…下手人は絶対に許さぬぞ。


「くそったれが…とりあえず飯食って対策を考えるぞ。荒らされ方を見るにただの害獣対策では意味が無い」


「これはひどい有様ですね。家屋は無事の様です。虫除け装置の効果が作用したのでしょうか?。」


 ひとまず無事な野菜を収穫し、村で調達した調味料で肉を焼く。食後にお茶を飲む頃になると少しは落ち着いてきた。


「ふぅ…しかしどうしたものか…このままじゃおちおち家を空けられないぞ。ジェフ、なんかこう警備用のロボットとか作れないの?」


「一応作れはしますが、素材が足りません。原料を調達できてもこの体の精製レベルではあまり強力な物は期待できません。」


「それでもいいよ、なにもしないよりマシだろ。んで?何が要るんだ?」


「適当な鉱石類があれば出来ますが、製錬されてないとするとかなりの量が必要になります。」


「任せておけ、採掘は得意だ。ゲームじゃ開始早々に鶴嘴1本で地獄まで掘り抜いたもんだ」



 ということで山へとやってきた。周囲は岩肌のそれっぽい所だ。お供にはタマちゃん3号と4号。おれが鶴嘴とシャベルを氣で模して適当に掘っていくとタマちゃん達が勝手に判別して木箱に詰めていく。ジェフは自宅の警備と畑の後始末を任せてある。

 しかしちょくちょく邪魔が入る。トンテンカンと採掘の音につられてやってくる奴等がいるんだが、なんか山や森の様子が以前と違う。今までこの辺で見かけなかった緑の汚物共や、大人よりも大きい鬼の様な奴、小型の恐竜っぽいの等、いかにも魔獣というのが増えている。なんか起こってるのか?爺さんがたまに山へいってたのはこいつら間引いてたとか?まぁ考えても答えは出ないので置いておこう。




 そんなこんなで採掘と畑の再生の日々を送っていたある日の事、山へ向かっていると突如タマちゃん達が走り出した。何事かと後を追いながら氣で探ってみるとなんと魔獣とは違う気配が!近くにはあの鬼の気配もある。

 急いで現場へ向かうと猫だ!二本の足で立った茶トラ猫が鬼と対峙している!獣人だ!

 感動している場合ではない。背中には子供と思われる小さな獣人を2人?背負っており、相対する鬼が長く太い腕を振りかぶり今にも攻撃を加える瞬間だった。おれは走る勢いそのままに とぅ! と飛んで鬼の横っ腹にドロップキックをかます。体が折れ吹き飛んで倒れた鬼に3号がすかさず組み付き、電流を流して止めを刺した。グッジョブ。


「ぐ…ゴブリン?!いや…子供??…」 バタッ…


 こちらが名乗る前に猫獣人が前のめりに倒れ、気を失った。背中の子供達も元々寝ていたのか意識はない。


「大変だ!家まで運ぶぞ!タマちゃん、木箱を持ってきてくれ!」




 木箱を解体して担架代わりにし、おれがゴリ押しで道を作りながらタマちゃん達が慎重に運んで、お家へ到着。


「ジェフ!急患だ!バイタルチェックを頼む!」


そのまま家の中へ運び込み、布団を敷いて患者をスライドさせる。子供の方は座布団に毛布を被せそこに寝かせた。3人とも呼吸はあるが未だ意識はない。

 ジェフの目から怪しい光が発せられ、横たわる3人をスキャンしていく。スキャンが終わると怪我の手当てをしていく。色々出来て頼もしいロボットだ。性格は少しあれだけど。


「裂傷、打撲等多くありますが命に係わる大きな傷もないようです。じきに目を覚ますでしょう。子供達の方は多少栄養不足のようですが至って健康です。」




 ひとまず安心ということで救出時の状況をジェフと話していたら二人の子供の内、大きい方が目を覚ましたようだ。


「うにゃ~、おなかすいたにゃー。…あんたらだれにゃ?」


 ピョンっと立ち上がり二足歩行で猫がトコトコと囲炉裏の方へやってくる。白黒模様のハチワレ、その姿はどこぞのオトモの様だ。しかし危機的な状況から目覚めて、見知らぬ人物を前に第一声がこれだ。体は小さいが中々の大物のようだ。


「目が覚めたか。まぁこっちきて座れよ、飯なら用意してや「にゃ~ぶ~!」るよ」


 続けて小さい方も目を覚ます。こちらはグレーの体毛、まだ赤ん坊のようで四足でヨチヨチとした歩みだ。ほんわかした気分で見ていると、思わぬスピードで突進してくる!囲炉裏に突っ込みそうな勢いだったがジェフがキャッチし事無きを得る。


「いやはや元気なことで。こちらの子は私がミルクを与えましょう。」


 ミルクと聞いて宇宙船でのトラウマを刺激されそうなのでさっさと台所へと向かい、飯の準備をする。猫だから肉メインでいいだろう。そもそも野菜のストックも少ないし。

 飯を食いながら話を聞くに、大きい方が男の子でダニー、小さい方は妹でクロエ、二人を背負っていた茶トラ模様の大人は隣家に住んでたお姉さんでテイラと言うらしい。なんでも村が魔獣に襲われて壊滅、テイラに連れられ逃げてきたそうだ。お腹いっぱいになったら安心したのか、二人ともまた寝てしまった。




 洗い物を片付け改めて保存庫を確認するが、このままでは食料が心許ない。おれ一人食う分にはしばらくもつが、3人も増えるとすぐに尽きるだろう、なんとかしなければ。


「おいジェフ、畑対策の方はどんな進捗だ?」


「試作の一部隊がひとまず完成し、大まかな調整が終わりました。後は実戦でテストして細かい調整と問題が起きなければ、といったところですね。」


 なにやらもう出来ているという事だ。囲炉裏にバリケードを施し、3人はタマちゃんに任せてジェフの作業小屋へ向かう。いつの間にかこいつが自分で勝手に建てていた小屋だ。

 ジェフが中へ入り少しすると、5体程なにかを後ろに引き連れて出てくる。これらが新しいロボット達だろう、こちらへくると横並びに整列した。5体の内4体はタマちゃんを一回り小さくしたようなものだ。残る1体は縦長の立方体で下部にキャタピラが一対ついており、サイドからは腕が出ている。


「こちらが試作品になります。4体はタマちゃんを警備用に特化させたもので、この新しいタイプは戦闘に特化しており司令塔の役割も兼ねています。」


「こいつらが新戦力か…ミニタマ達はタマちゃんの実績があるからいいとして、こいつは大丈夫なのか?ハハっ、歩くゴミ箱みたいだな」


「コトバニヨルボウリョクヲケンチシマシタ ゲイゲキモードヘイコウシマス」


 おれの言葉に少し甲高い機械的な音声でゴミ箱が反応した。上部についたレンズが赤く光り、サイドの片腕が一旦引っ込んで1m程の剣を持って再び出てくる。


「ダレガアルクゴミバコデスカ ワタシノコトハ ソウシレイカン トヨビナサイ」


 キャタピラがうなりと砂ぼこりをあげ、ゴミ箱が高速で近づいてくる。思わず後方上空へ飛びあがり躱すが、なんとやつのシャフト辺りが伸び反動で飛び上がってくるではないか。おれに肉薄し剣を振り下ろすが白羽取りで応戦…が…熱っ!


「おいジェフ!なんだこのゴミ箱と剣は?!触ったらめっちゃ熱かったぞ!」


「超音波ブレードを搭載しております!本当は単分子ブレードにしたかったのですが…って何をやっているのです!止まりなさい!」


「いや、大丈夫だ!このまま実戦テストをやろう!」




 怪我人と子供が寝ているので家から離れた場所に誘導しテストを行った。しばらくしてジェフがリモコンのようなものを持ってくると、赤い光は収まりテストは終了した。


「アナタハナカナカヤルヨウデスネ ワタシノブカニシテサシアゲマショウ」


 …我が家にポンコツが1体増えた。

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