第21話

 あの日。

 拘束ではなく、ただ、あんたの、寝転ぶ姿を見たい。

 無防備に眠る姿を。


 俺は、変態です。

 自縛をするような。


 がっかりした?

 

 と、俺が自らの姿をさらして数時間後、ファンと名乗る男は、満足したらしい。


 いつの間にか、姿が見えなくなっていた。


 まるで、ル・ファントム・ドゥ・オペラ、オペラ座の幻影、だ。日本語だとたいてい、「オペラの怪人」、ケンヒル版、ロイドウェバー版だと「オペラ座の怪人」、城田優が出ている版のミュージカルでもそうだ。


 かちゃり、と、自ら扉を開ける。


 ここは、芸能人なんか住まない、いない。


 むしろ、地方の芸能人は、バラバラに生活している場合が多く、たとえ、水戸芸、水戸芸術館の劇団に所属していても、給料が良いわけでなく、それだけで生活できないので、隣町であったり、安いアパートだったりに住んでいる。


 この国は、ダンサーに、バレリーナ、バレエにたずさわる人に、踊り手に、芸術家に、演劇人に、俳優に、役者に、子役に、そして、画家に、すべての芸術にたずさわる人間に、金をばらまかず、接待と、日本の良さを広めることを求める。


 だが。


 いったい、この地球全体で、どれだけの人が、芸術にふれられるというのだろう。


 孤独に生きている、ひとりの、食べるものにも困る老人に演劇の観覧券を与えても、

「その金を、財布にある金を、まるごと置いて行ってくれ」となるのが、オチだ。


 バス停で、ただひとり、寒さに震えながら待っていた彼女は?


 演劇に参加して、脚光を浴びていたのに、最後はみじめにも、家を失い、バス停のしたで、亡くなった。


 周りに誰もいなかったから、いや、殺害した人間だって被害者だ、社会の。


 とは、いえ。

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