第13話

 GAFAの中の一企業、脱税をすることで、富裕層の地位を築いた企業が提供する、搾取型音楽定額配信を起動して、シングシングシングを探し、フォッシーのユーロバージョンと同じバージョンがないことを確認し、結局は、ドゥープを探して、ヨーグルトを流しながら、音声入力を試みる。


 やはり、手元の電子携帯電話で音楽を流しながら、音声入力するのは不可能だったので、手元にある、これまた、タックスヘイブン、税金逃れに貢献した企業が提供した電子携帯電脳を立ち上げ、Doopで検索をする。


 まるで、これでは、GAFAという宗主国につかえる奴隷のようだ、と自嘲しながら。


 アルバムは一発で探せた。


 リハAで、要するに、地下室に、合法的に軟禁された、稽古場で、何回この曲を聴いたか覚えていない。


 軟禁という名の、楽園。


 楽園をユートピアと呼ぶ人間がいるが、ユートピアとは、本来、どこにもない国をさす。

 天国は、そうだな、桃源郷、シャングリラ、パライソ、パラダイス、パラディーゾ、をさす。


 目を閉じなくても、あ、え、い、う、え、お、あ、お、か、け、き、く、け、こ、か、こ、と発声練習をしながら、ステップを踏み、その基礎練習が終わったら、確か、腹筋と腕立て。


 そう言った光景はすぐに思い出せるが、仲間は、もうすでに、9割以上がやめている。


 子役というのは、そんなものだ。


 1日どころか、自分をかえようとして応募して、稽古場にすらこられず、消えていく。


 まるで、一瞬の幻。


 そして、シャボン玉のように、地方の演劇というものは、東京の演劇と違い、写真に残ることも、誰かの記憶にとどまることなく、すべては、夢だと思えるほどに、邯鄲の夢である。


 一瞬で栄華を見て、それが夢だと気付いた時にはもう遅いんだ。

 

 その夢からさめた後に、舞台に上がっても、すでにそれは夢のあと、片付けがはじまり、資材は別の命を吹きこまれ、衣装はただの、布として、その命を終え、死を迎える。


 おりぢなるだから、余計に、形に残らない。


 誰も俺の演技など、記憶することなんてないんです。


 まるで、降り積もった雪が、春になったら溶けるように、それは、山形で、釧路で幾度も見た風景、水戸の雪は一瞬で消えるから、芝居という夢も、山形、北海道と違って、積もることなく、消える。


 死を優しくつつむことなく、一瞬で。その死を悼む間さえあたえず、社会は、世界は、まるで、私を置き去りにして動いていく。


 そのあいだに、世界は私を知らずに、ここにいるなんてわからずに、語らず、そして、誰もいなくなった。


 奏でる曲は、Dodoに変わっていた。この曲も、稽古場で何回聴いたかわからない。地下室という名の、ある意味処刑場で、快楽の場所。

 いつもいつも切り立ったがけにいるようで、後から来た後輩は、我が物顔で、ひたすら、

「先輩後輩の区別ないんで、

 先輩、いじめても構わないですよね?」

 ということなく、容赦なく、切りつけてくる。


 殺陣を受けることも、切り付けることさえ、うまくできないわたしは、刃をよけることなく、モロに受けて、傷ついて、無視した。


 こいつは、一体なにを言っているんだ。


 そういうやつに限って、何かあるごとに、泣く。


 泣くな、とは思った。


 泣きたいのはこっちだ。


 一番長くいるのに、とうとう後輩たちは、わたしをうやまうことなく。


 ACM劇場の裏口、入り待ち出待ちがおり、差し入れの花を持つ連中が、なぜか、自分がドアをおさえた途端。


 わーっ!!


 来てくれたんだ、ありがとう!!


 と、かけだしていく。


 入り待ち、出待ちがない人間は、立場が弱い。


 あまりにも、長く出てこない私を心配した、演出家が、代わりにドアをおさえにきた。


 あ、と私は聞いた。


 すみませーん。


 だから、この曲を一緒に聞いた人間で、今、芸能界で活躍している人間を、私は1人しか知らない。


 彼は、コロナ禍の紅白歌合戦で、その開幕映像で踊っていたダンサーである。


 まぁ、あそこまで礼儀に欠ける連中をゆるしていた、おとなたちにも責任はある、とは今では思う。


 とはいえ。


 あんなにもたくさんの女子がいて、あんなにたくさんのたまごがいたと言うのに。


 その後どうしてるか私は知らない。


 正確には少しは聞いているが、何故かわからないが、お世話になった人は、私ではなく、全く無関係のおばを信用しているので、あなたもおばの信者なんですねと、なる。


 おばの信者は、数多い。


 今でも、信者が、逐一、俺の様子を、教祖様であるおばに伝えてくる。


 どんなにおばから離れたくても、何故かわからないが、おばは、俺の人生を乗っ取っていく。


 子供の頃から、子役の頃からそうだった。


 ある日、突然の話である。


 台本覚えるために、自分の部屋で1人ひきこもっていると、ねーぇ、と猫撫で声でおばがいきなり、部屋に入ってきた。

 

 ビクッとなる。


 台本の読み合わせ?


 私は相手役やるー。


 私こう聴いたの。


 主役の男の子ね、お母さんと一緒に読み合わせしてるんだって。


 だから、私もそれやりたいの。


 残念ながら、断った。


 流れているKindleの音楽を切る。


 ぞっとする位、おばは、まるで自分を父親のように扱った。


 息子のように扱った。


 俺は息子じゃない。


 あんたの本当の息子じゃない。


 気が狂ったように、

 たった12歳まで一緒だった、2人の息子について。


 それ以降の息子の姿を、あなたは知らないのに、あなたは理想の息子俺に求めるんですねと、心の中でつぶやく。


 いいよ。理想の息子になるよ。

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