中の上くらいがいいよね

「ラーメンが食べたい」

 と真希が言った。

「フロントに頼めば?」

「あれ冷凍メンの業務用スープだからやだ」

 レジャーホテルの厨房に過剰な期待をしてやるな。

「じゃウーバーに頼めば?」

「のびるからやだ」

「のびるぶん、固めで頼んどけばいーんじゃね」

 真希は急に険しい顔をして立ち上がった。

「違うってば。全然わかってないよ。それは『伸びてヤワくなった固めのラーメン』、なの。あたしが食べたいのは『茹でたての普通のラーメン』。それは全然別なんだよ。わかるでしょ」

「フム」

 なるほど、一理ある。

「ヤケドしそうなスープ! でもまだちょっとぬるいトッピング! その状態で出てきたラーメンが食べたいの」

「わかった、わかったからマア座れ」

 俺はまず疑った。

 コイツ、ベンゾジ系の安定剤か導入剤のんでトニカク味が濃いモノ食べたい状態でしかもハイになってるのでは?

「おまえ、ロヒとか飲んでないよな?」

「違うもん。本当に食べたくなったの。ぜんぜんシラフでっす」

 いや、そんな得意げに言うような事でもないんだけどな。

 一応、健康な食欲らしい。なんか俺も食べたくなってきた。

 癪なことだが、アツイ演説を聞いてるうち俺もラーメンの胃になってしまったぽい。

「よしわかった、行こう」

「美味しいお店知ってるの?」

「中の上くらいかな」

「あたし次郎系と家系ニガテなんだけど」

「たしかトリと魚介ダシだよ、アッサリめだよ」

「あたし並びたくないけど大丈夫?」

 ひたすら注文の多いヤツ。

「席数あるから時間外せば大丈夫だと思う」

「やった」

「ちょうどいいから、清掃頼んで出るか」

 俺はフロントへ内線でその旨を伝え、さっさとパンツに足を通し服を着こんだ。

 一応コートもってこ。

「おいさっさと……」

 真希を見ると、まだマッパだった。

 なんか下着を拾い集めてキャリーケースに押し込んでいる。

「……なにしてんの」

「何って、部屋の清掃頼むんでしょ」

「そうだけど」

「あんたも片づけなさいよ」

 えー?

 なんか真希はさらに紙くず拾い集めてゴミ箱に入れたり、皿をキレイに重ねたり、ベッドを整えたりしだした。

 いや、どうせリネン類は交換だよ。

「まあ、俺のは一カ所に寄せてあるから大丈夫だ」

「肌着とか見えてるじゃん!」

 おまえここを何のホテルと思ってるんだ。

「作業の邪魔にならないよ、大丈夫だよ」

「あーもう男ってなんでこうなの信じらんない」

「なあ、早く服着ろよ。夕方になっちまうと混むぞ」

「ほんともー信じらんない」

 俺はあきらめた。並ぶなこれ。

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