第4話 つまり、これから頑張れってこと

「それでは召喚スキルについて書いてある本を持って来ますので、少々お待ち下さい」

「いや、俺も一緒に行こう。本がある場所を覚えておきたいからね」

「失礼いたしました。こちらに召喚スキルについての本を置いている書庫があります」


 セルブスとララについて行くと、ウォークインクローゼットくらいの大きさの、小さな部屋に案内された。その部屋には縦長の机と、両サイドに本棚だけが置いてあった。一つだけある窓には分厚い暗緑色のカーテンが下げられおり、外からの光を完全に遮断している。


 ララが燭台に火をともし、徐々に部屋の中が明るくなっていく。

 なんとそこには!

 申し訳程度の本が棚に並んでいるだけだった。

 なんだろう、このちょっとガッカリした気分は。本当にレアスキルなんだな、召喚スキルって。


 机には椅子が備えつけられていなかった。どうやら立ち見専用のようである。そうなると、必要なら本を先ほどの部屋に持って行って読む形式なのかな? それならセルブスが本を取りに行こうとしたこともうなずける。


 そのわずかにある本の中から、セルブスが一冊の本を取り出して俺の前に置いた。どうやらこの本の中に召喚スキルの基礎が載っているようである。

 ワクワクする心を抑えながら、慎重にその本のページをめくった。ん? この本、薄くない? 同人誌の即売会の薄い本よりもさらに薄いぞ。


 パラパラとページをめくる。そこには動物の絵が描いてあった。でもなんだろう、これ。どれも初めて見る動物ばかりだな。

 これでも俺は、この世界のことを少しでも知ろうと思って、王城図書館にはよく通っていたのだ。その中には当然、図鑑なんかも含まれている。


 俺が見た図鑑の中には、動物図鑑や、魔物図鑑なんかもあった。だが、ここに描かれている動物たちは、それらの中には載っていない生き物ばかりだった。

 もしかして、召喚スキルで呼び出せるのは普通の生き物じゃない?


 困惑してセルブスを見ると、ニッコリと笑いながらうなずいた。

 もしかして俺がそのことに気がつくかどうか試したのかな?


「ルーファス王子がお察しの通り、その本に載っている生き物は動物でも、魔物でもありません。我々はその生き物を”魔法生物”と呼んでおります」

「魔法生物……それじゃ、召喚スキルで呼び出すことができるのは、この魔法生物という生き物になるのか」

「その通りです」


 魔法生物には一応、それぞれに名前がついているようだ。しかしその数は決して多くない。いや、少ないと言っていいだろう。


 ……召喚スキルってハズレスキルなんじゃね? 俺の胸の内側でムクムクとそのような疑惑が膨らんでいく。だがここでそれを言えば、二人を崖の下へ蹴り落とすことになってしまうだろう。黙っておこう。


「セルブス、召喚スキルを使っているところを見てみたいんだけど、ダメかな?」

「いいですとも。お見せいたしましょう。ですが、この部屋は狭いですので、先ほどの部屋へと戻りましょう。その本はルーファス王子がお持ちになってもらっても構いませんよ」

「そうさせてもらうよ」


 この図鑑を隅から隅まで読めば、魔法生物を召喚することができるようになるのだろうか? 実に楽しみだな。

 先ほどの部屋へ戻ると、さっそくセルブスから召喚スキルを見せてもらえることになった。ドキドキしてきた。


「それでは……セルブス・ティアンの名において命じます。顕現せよ、マーモット!」


 その瞬間、セルブスの体から発せられた光が彼の足下に集まった。

 それは徐々に生き物のような形になり、最終的には大きくなったリスというか、プレーリードッグのような生き物の姿になった。図鑑の中に描いてある、マーモットの絵そのままである。


「これがマーモット! 触ってみてもいい?」

「もちろんですとも。私が命令をしない限り、かんだりすることはありませんので安心して下さい」


 マーモットを茶色い毛を触ってみる。見た目通り、ゴワゴワとした毛並みである。

 モフモフとはほど遠いが、これはこれでいい感じの触り心地である。ああ、癒やされる。俺が欲しかったのはこれだ。もっと、もっと俺にモフモフ成分を分けてくれ!

 これはセルブスに頼んで、次のモフモフを呼び出してもらわねば。


「他には呼び出せないの?」

「あと一種類、呼び出せます。セルブス・ティアンの名において命じます。顕現せよ、バードン!」


 なるほど、自分の名前を言って命令すれば魔法生物を呼び出せるのか。思ったよりも簡単そうだな。

 ふんふん、と観察していると、再びセルブスの体から光が発せられ、今度は左肩に小さな鳥が出現した。赤いくちばしに白い羽根。

 どう見ても文鳥です。本当にありがとうございました。


「モフモフだぁ! セルブス、バードンを触ってみたい」

「モフモフ? ええと、どうぞ」


 困惑しながらもバードンをこちらへ渡してくれた。この羽の柔らかさ。まさしくモフモフだ。飼いたい。このモフモフを部屋で飼いたい。

 どういうわけか、この世界には動物を飼うという習慣がないんだよね。ネコもイヌも動物として存在はしているので、非常に残念である。


 だがしかし、さっきまでの暗い俺とはさようなら。

 召喚スキルがあれば許可がなくとも合法的にモフモフのペットを飼うことができる。

 自信が持てる、女に~モテる!


「ララは? ララは何か呼び出せないの?」

「あの、私はまだマーモットしか呼び出すことができませんので……」


 悲しそうに眉を下げるララ。

 え、もしかして、これで終わり? そんなことってある? ダメじゃん召喚スキル!

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