第12話 勇者はクラスに潜伏中

「あれ、誰?」

御花畑おはなばたけさんと小前田おまえださんなの。嘘でしょ」

「あんなに奇麗になって」


 登校してきた朝の教室が騒がしい。

 それも仕方がない。

 朝一で呼び出されてスキルを掛けてやったのだから。


 それに、小前田おまえだのお説教は参った。

 とばっちりで俺まで叱られてしまったのだ。

 メイクしてやってやっと小前田おまえだの怒りが収まったが、やっぱり波乱の一日の始まりだ。


「なんで二人があの殺人者の波久礼はぐれと一緒に登校してくるのよ」


「今言ったのは誰? 波久礼はぐれ君は大事な友達よ。いいえ、史郎はマブダチだわ」

「うんうん、友達だから悪く言わないでね」


 何となくむず痒い感じだ。

 別に虐められるのが好きなわけじゃないが、庇われている感じがなんとも。


「二人は騙されている。こんな奴、虐められて当然だ」


 クラスメイトの荒木あらきがそう言った。


「えー、御花畑おはなばたけさんと小前田おまえださん、芸能人になるの!」


 ざわめきが大きくなった。


「おい、波久礼はぐれ、二人と付き合うのを辞めろ」


 クラスメイトの荒木あらきが語気を強める。


「そんなの当事者の問題だろ」

「生意気な奴だ。休んでいる親鼻おやはなさんが登校してきたら、お前なんか……」


 御花畑おはなばたけに睨まれて口ごもる荒木あらき


「お前なんか何だ?」

「何でもありません」


 参ったな。

 恰好悪いことこの上ない。

 女の子に庇われるとは。


 真中ふびとだと言ったらどうなるだろうか。

 いや、どうにもならないかも知れない。

 このままで良いとは思わないけど、積極的に関係を見直そうとも思わない。


 野神のがみの始末をつけたのは俺の決断だ。

 その結果は甘んじて受け入れる。


 俺の載っている雑誌が発売されたようだ。


「ふびと様かっこいい。キュンとくる」

「だよね。クラスの男子なんか目じゃない」

「ふびと様はどこの学校を出たんだろ。一緒に通いたかったな」

「この学校じゃないのは確かね。歴代の卒業アルバムを調べたから」

「じゃあ始めるぞ」


 授業が始まって、一限目が終わり、御花畑おはなばたけ小前田おまえだが俺の所に来た。


「なんで史郎の良さが分からないのかしら」

「脅されているのと何回も聞かれたわ」

「気にすんなよ。所詮は表の世界。妖の世界を知っている俺としてはクラスメイトのやっかみなど気にしない」


 それっぽいことをシリアスな声で言ってみた。


「なにそれ受ける。もしかして漫画の台詞?」

「雰囲気壊したらだめでしょ」


「幽霊も大した敵じゃないけどな」

「そうでしょ。この間の廃屋はザコとの戦闘みたいだった」

「あれ、恐かった。夜トイレに起きるのが辛かったよ」


「まあ、クラスメイトに嫌われないように。俺とはほどほどに付き合うと良い」

「クラスメイトに嫌われたって構わないわ」

「私も」


「そうか。ありがとな」

「それで放課後の予定は?」

「通販の荷物が来ているから確認と、宝くじ動画だな」

「もしかして術を使うつもり。それって不味くない?」

「幻をみせたりしなければ良いんじゃない」


「幸運を神に祈るだけだ」

「前から気になっていたけど、史郎の力ってどういうもの?」

「私も知りたい」


「秘密だ」

「ケチなのね」

「秘術って奴じゃない」


「おい、波久礼はぐれ、二人とは口を利くな。クラスの総意だ。お前と喋ると御花畑おはなばたけさんと小前田おまえださんが穢れる」


 荒木あらきが文句を言いにきた。


「嫌だね。俺は好きな人と好きなように喋る。誰の指図も受けない」


 荒木あらきは拳を握ると殴りかかってきた。

 俺は椅子から転がったふりをして避ける。

 俺が座ってた椅子が、荒木あらきの弁慶の泣き所に直撃。

 荒木あらきは無様に転がった。


「くっ」

「俺は何もしてないよ。みんな見てただろ。荒木あらきが勝手に椅子に躓いただけだ」


 荒木あらきの目には怒りがある。


「あとで覚えていろ」


 全く、異世界でもしょうもない奴だったが、どうなるかな。

 剣道部だから竹刀でも持ち出すかな。

 木刀を持って来たら殺意ありだな。


 さてと、どう始末をつけよう。

 昼休みになった。

 荒木あらきが付き合えと言ってきた。

 やはりの体育館裏。


 荒木あらきの手には竹刀が握られている。

 あらかじめこの場所に準備しておいたらしい。


「やるのか?」

「お前なんか」


 突きを放つ荒木あらき

 古武術の動きで竹刀を払いのけて、腕をつかむ。

 そして投げ飛ばし、地面に叩きつけた。


 ポケットから取り出した小瓶に入ったネクターポーションを数滴、振り掛ける。


「どっちのファンになったか知らないが、ファンなら信じてやれ。そして恋人ができたら祝福してやれよ。それがファンというものだろ」


 そして、俺は体育館裏から去った。

 まったく、日本はまだるっこしい。

 異世界の殺伐とした雰囲気が懐かしくなる時がくるとはな。


 けがさせてもいけないなんて、なんというお子様仕様。

 これなら幽霊相手の方が気が楽だ。

 俺の立ち位置を考えておかないと。

 武術オタクとでも設定を作るか。

 それなら、歯向かって来る奴も減るだろう。

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