第13話 SNSを活用しよう

 今日のハーブティーのブレンドはパープルな気分。ブルーとレッドの組み合わせは体の中の毒素が抜けていくような気分になる。そんな優雅なティータイムにやってきたのは、いつもの篠崎さんだ。


「こんにちはルネさん。相変わらず、優雅な時間を過ごしているようですね」


「それはこのボスモンスター暇すぎって煽りかな?」


「いえ、私は決してそのようなことは思っておりませぬ。ただ、ルネさんに余った時間を有効活用して頂こうとある作戦を用意しました」


 篠崎さんがメガネを指でクイっと持ち上げる。出た。メガネマン特有のメガネクイ。ついでに添えられるドヤ顔も相乗効果で苛立たしく感じて芸術点が高い。


「とりあえず、ルネさんに預けてあるタブレットをこちらに架してください」


「タブレット? 別に良いけど、ちょっと待ってね……はい、どうぞ」


 特に履歴を見られて困るようなサイトは閲覧していないので、私は篠崎さんにすんなりとタブレットを渡した。篠崎さんはなにやら操作をするとあるサイトを開いたようである。


「やはり、このダンジョンの帯域でもこのサイトは開けるようですね。トゥウィッター」


「え? なに? ツイ――」


「ルネさん発音には気を付けてください。トゥウィッターです。2度と間違えないで下さい」


 篠崎さんに食い気味に怒られてしまった。きっと、発音を間違えると色んなところから怒られてしまうのであろう。そのことは、彼の表情から察せられた。


「それで、トゥウィッターって何?」


 なんか色合い的に解毒作用がありそうな鳥のシルエットが見える。これがトゥウィッターのマークなのか。


「短い文章を使って他人と交流するメディア。SNSと呼ばれるものの代表例ですよ。他人に投稿に対して、反応することができます。リプライをしたり、拡散したり、ナイスって送ったりですね」


「よくわかんないけど、動画サイトと一緒の要領なら、拡散されていっぱいナイスを貰った方が人気者になれるってこと?」


「流石、ルネさん。飲み込みが早い。正にその通りです。今はSNS全盛期の時代。なにかしらのソーシャルメディアを使用しなければ社会から孤立してしまうのですよ」


「ええ……私はずっと孤立していたってわけね」


「当たり前じゃないですか。ダンジョンの最奥にずっと引き籠っていてなぜ社会から孤立してないと思ったのですか?」


 身も蓋もない。篠崎さんって実は結構意地悪というか鬼畜というか。まあ、鬼畜メガネってことで。


「それではアカウントを取得したので、設定してみましょう。アイコンの設定はルネさんの自撮りでも良いですか?」


「あ、はあ。それでお願い」


 よくわかんないので、ここは篠崎さんに一任しよう。放っておいたところで別に滅茶苦茶変なことをするような人ではないし。


「アイコンの設定をしました。それでは最初の投稿をしましょうか。記念すべき最初のトゥウィート。何にしましょうか?」


「そんなこと急に言われても」


 SNSとやらの初心者である私が、気の利いた投稿が思いつくわけがない。


「仕方ありませんね。無難に挨拶からにしましょう」


『アルラウネのルネと申します。私は本日よりトゥウィッターを始めさせていただきました。これからみな様と仲良く交流出来たらいいなと思っております。よろしくお願い致しますね』


「こんな感じの文章でどうでしょうか?」


 え、なにこれは……


「かたーーーーい! 硬すぎるよ篠崎さん! え? 私、そんな堅物に見えた?」


「堅物には見えませんが、怪物には見えます」


「まあ、そりゃあモンスターだからね……って、違う! 誰が怪物なの! こんなかわいいルネちゃんに対して怪物は失礼すぎるでしょ!」


 全く、この人は。本当にデリカシーの欠片もない。


「篠崎さん。貸して。私がやるから」


 私はタブレットをペシペシと叩いて文章を打ち込んでいく。


『アルレウネのルネだよー。みんなーよろしくねー。私は、今深緑のダンジョンの最奥にいて、とっても寂しいの。誰かこの寂しさを埋めてくれないかなー? なーんて。でも、ダンジョンに会いに来てくれたら嬉しいな。私と一緒に楽しいことしようよ。探索者のみんなと出会えるといいな』


 うん、我ながら良い感じの出来だ。一応篠崎さんにも見せておこう。


「篠崎さん。こんな感じの文章でどうよ?」


「あー、ダメですね。運営に見つかったらBANされるやつです。やめましょう」


「BAN!? な、なんで? BANってあれでしょ。禁止とかそういう感じの意味だよね?」


「ええ、そこから転じて、アカウントの利用そのものが禁止されてしまいます」


 うへえ。真面目に文章書いただけなのになんでアカウント停止にまで追い込まれないといけないんだ。トゥウィッターの運営の闇が深すぎる。本当にマスクのように深い闇に覆われているんじゃなかろうか。


 そんなこんなで篠崎さんと色々と意見をぶつけあった結果、タブレットの自撮り機能を使って、私の自撮りをあげてそこにコメントするような形となった。


『ルネだよ。よろしくね。気軽に話しかけてくれると嬉しいな』


 私が画面に向かってかわいくピースをしている画像も添えている。まあ、出だしはかなりシンプルだけど、こんなもんで良いと思う。最初の投稿から色々と奇をてらってもお滑りしたら悲しいだけだし。


「まあ、トゥウィッターの通信料程度でしたら、投稿されている動画を開きさえしなければ、快適に利用できることでしょう。トゥウィッターの使い方はルネさんにお任せしますが、くれぐれも軽率な発言をして炎上などなさらぬように気を付けて下さいね」


「はーい」


 篠崎さんは定時になったので帰って行った。でも、トゥウィッターって暇を潰すツールを手に入れられたのは大きい。最近、篠崎さんにもらったラノベも読みながら合間合間にチェックしていこう。


 最初の投稿をしてから結構時間経ったけど、反応あるかな。ちょっと見てみよう。トゥウィッターを開くとなんか通知がきている。ということは何かしらの反応があったというわけか。通知のベルマークを押すと、そこにあった反応は……


『ルネチャン、可愛らしイネ(^o^)😃(^_^)😃☀ (^з<)💗今から、寝よう、と、思ってた、のに、、目が、覚めちゃった、よ、🎵(^_^)(^з<)😃✋😃♥ 😃☀ (笑)(^o^)😃どうして、くれるんダ😚😃✋(笑)😍😃♥ ❗💕😘😃 #おじさん文章ジェネレーター』


 うへえ、なんだこの身の毛もよだつ気持ち悪い文章は。ぞわっとする。なにこれ、ぞわっとする。私って、結構かわいいとか褒められると嬉しくなるタイプだけど、これはなんか違う! 嬉しいをかき消す遥かに上位な気持ち悪さ。


 私の本能というか生理的な何かが告げている。こいつを始末しろと。でも、仮にこの文章を投稿した人が探索者としてダンジョンに来たとしても、この人の魂は回収したくない。


「こういう時どうすればいいのかわからない……あ、そうだ。確か篠崎さんは、見たくない相手はブロックすれば良いって言ってた」


 私はこの文章を送ってきた人物のアカウントを開いて、色々と操作を試してみた。するとついに【ブロックする】という機能を発見した。これは正にお別れボタン。私がブロックを解除しない限りは、おじさんは永遠に私と関われなくなる。うん、実に平和だね。


「さらば。名前も知らぬおじさん」


 私はその言葉と共におじさんをブロックして永遠に電子の海へと沈めたのだった。もう2度とこの奇々怪々な文章を見ることはないだろう。そう思うとなんだか少しだけ、物悲しいような儚い気持ちに……ならないな。気持ち悪いだけだったし。

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