第9話 自己紹介

 入学式が終わり、生徒たちはそれぞれの教室に分かれる。ローラとフュースは講堂を出て校舎に向かう。


 校舎は四階建てで、一階が食堂・購買部があるフロアとなっており、二階から四階が各クラスの教室があるフロアとなっている。

 二階にはABCDの4クラスの教室があり、三階はSクラスとSSクラス、四階はSSSクラスの教室になっている。


 SSSクラスはABCDクラスの4倍の広さを使用している。教室だけではなく、喫茶室、書庫、鍛錬場もある。SSSクラスの待遇は他クラスとは隔絶されているのだ。


 --何なの? この豪華さ! 冒険者を育成するのに必要ないじゃない!


 ローラはあまりの豪華さに圧倒されている。冒険者は人が足を踏み入れないような場所の探索やダンジョンの攻略をしながら世界各地を旅する。その生活はこの豪華さとは無縁のものだ。


 --うわぁ! すごい! 絨毯まで敷いてる!


 フュースは素直に喜んでいる。『剣姫の郷』は質実剛健を旨とするため首領の館といえども贅を凝らしたものとは言い難いが、外部からの客が使用する施設は相応の豪華さがあるため、ローラと違って初めて見るというわけではない。


 ローラとフュースは教室の入り口で固まっている。固まっている二人をよそに、王族のアレンや貴族家の生徒たちは平然としている。


「SSSクラスは大戦の際に戦いの中心となるべき人材を育てる場であると同時に、王族・貴族と平民トップの人材の交流の場でもあるのですよ。私はアレン。知っての通り、この国の第三王子です。お二人の名前を伺っても?」


 アレンが入り口で固まっているローラとフュースのもとに近寄り話しかける。身分が下の者が上の者に話しかけることはマナー違反とされる。このため、ローズとフュースが他のクラスメイトと交流を図るべく自ら動いたとしても、それは無かったことにされてしまう。アレンはローラとフュースに話しかけることで面倒なしきたりの弊害を除去しようとしたのだ。


「私は『剣姫の郷』の首領、フレイアージュが一子、フリュースティ。フュースとお呼びください」


「私は王都にて『ヘインズ家具店』を営んでおりますアル・ヘインズールとアル・マーシリアの娘、アル・グローラです。ローラとお呼びください」


 ローラとフュースは慌てながらもカテーシーをしつつアレンに答える。フュースが先になったのは、ただの平民のローラよりもフュースの方が身分が上だからだ。フュースの母、フレイアージュは正式に爵位を与えられている訳ではないが、伯爵相当の扱いを受けている。


 アレンがローラたちに話しかけるのを見て、他のクラスメイトたちも近寄ってくる。


「私はグリドール公爵家のマリアンヌです。フュースさん、ローラさん、よろしく」


 制服を優雅に着こなし、青みがかかった銀髪の少女が笑みを浮かべながら自己紹介をする。入試成績2位にして、アレンの婚約者候補の筆頭と目されている。


「俺はシレーヌ公爵家のウィリアムだ」


 背筋がしっかりと伸び、堂々とした少年が続く。背中には騎士剣を背負っている。学園では武器の持ち込みは推奨されていないが、この少年は気にしていないようだ。入試成績6位で、学問よりも剣術や武技を好んでいる。


「ラントマーク辺境伯家のマルクス! フュースちゃん、ローラちゃん、よろしく☆」


 ヘラヘラした少年のように見えるが、入試成績は3位。眼光には微かな鋭さが見られる。


「サダナ伯爵家のリーシアです。よろしくお願い致します」


 この金髪の少女もアレンの婚約者候補と言われているが、マリアンヌには一歩及ばないと言われている。そのせいか、マリアンヌだけではなく、ローラとフュースに対する対抗心が微かに滲み出ている。入試成績は5位なのだが、本人は納得していない。


「レアン子爵家のカシウスです。よろしく」


 眼鏡をかけた少年で、アレンの腹心と言われている。入試成績は4位で、剣術や武技は苦手で学問や魔法に適性がある。


 全員の自己紹介が終わり、和やかな空気が流れた。


 そこに、


「皆さん、自己紹介は終わったようですね。それでは席に着いて下さいね」


 にこやかに笑みを浮かべながら担任である”水の聖女“ミストリアが入って来たのだった。

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