第6話 入学式開始直前

 ローラは第三王子について盛り上がる両親を尻目に生徒席に向かう。

 ローラが入るSSSクラスは、今年は8名で構成される。第三王子アレンと貴族の子弟たち、『剣姫の郷』の首領の娘、それと平民のローラ。


 ローラは入学式の案内に記載されていた自分の席に着くと辺りを見回す。


 SSSクラスは横4人2列で成績順に並んでおり、1列目左から1番に座っているのは第三王子アレンだろう。実技・学科ともに1番だったという。7番目のローラは2列目左から3番目だ。

 他の生徒たちは側近候補と婚約者候補だろう。貴族に顧客を持つ父ヘインズからそのように聞いている。何人かは試験の時に見かけた記憶がローラにある。その時の彼らの必死の形相を思い出すと、学園が忖度したのではなく実力で得た結果なのだろうと思った。


 右隣には、薄絹のヴェールをかぶっている少女が座っている。赤より少し柔らかい薔薇色の髪をしている。ヴェールは目元以外を覆うものだが、透けて見える横顔は線が細く色白な様子だ。手足はスラリとしており、全体的に儚げな様子だ。

 この少女が『剣姫の郷』の首領の娘だろう。


--何だか別世界ね……。まあ、適度な距離を保てればいいだけどね……。


 ローラはクラスメイトたちを見て、別世界に来たような気分になってしまった。

 もっとも、外から見たらローラも別世界の人間に見えるのだが……。


 ◇◆◇

 指定された席に着いたフュースは周囲を見回して、


--ヴェールを被らないなんて……そんな恥ずかしいこと私にはできない……


と思った。


『剣姫の郷』では、身内ばかりの郷を出るときにはヴェールの着用が義務づけられる。郷の外で外して良いとされるのは、私室にいる時と愛する者と情を交わす時などに限定される。それ以外で外すのは裸でいるのと同じくらい恥ずかしいこととされている。このため、フュースはヴェールを被らない者たちばかりのこの空間にいるだけで羞恥心が刺激されてしまう。


 入試成績8番のフュースは2列目左から4番目に座っている。左には艶やかな黒髪の少女が座っている。入試の時に誰よりも強力な魔法を披露していたのをフュースは覚えている。強力な魔法を使う反面、武技に精彩はなかった。フュースは、武技では誰も寄せつけなかったのに魔法はからきしの自分と対称的に思えたのだった。


 そんなローラを横目に見て、


--綺麗ですごい魔法が使えて……お友だちになれたらいいな……。


と思うのだった。


 ◇◆◇

「久しぶりだな。ヘインズ、マーサ」


 父母の席で顔見知りの貴族たちに一通り挨拶を終えたフレイアージュは、ヘインズとマーサに声をかける。


「お久しぶりです!フレイアージュ様」


「『第二次王都攻防戦』ぶりですね!」


 ヘインズとマーサは嬉しそうに返事を返す。


「フレイアージュ様。この方々は……?」


 アンナは不思議そうにフレイアージュに尋ねる。戦いとは無縁そうなこの夫婦の口から『第二次王都攻防戦』という言葉が出てきたのが意外だったからだ。


「ああ、『第二次王都攻防戦』の知られざる英雄たちだよ。あの変態賢者が戦線離脱する中、どうにか戦線を維持できたのは、この二人の力があってのことだった。感謝してもしきれない」


 この言葉にアンナたちは驚愕に目を見開く。


「大賢者様が抜けた穴を……?」


「いや、私たちはただ必死にやっていただけで……大賢者様と並べられるような大それたものじゃ……」


「そうです!遠くから魔法を撃っていただけで……!」


 ヘインズとマーサは必死に否定する。


「本来なら莫大な褒賞を得られてもいいのに、名乗り出るようなことをしなかったな。もっと報われていいと思うのだがな」


「いえいえ。フレイアージュ様のように思って下さる方々とご縁ができて、良いお付き合いをさせて頂いておりますよ」


「ヘインズは今、家具職人をしていますのよ! 是非お立ち寄りください!」


「そうか。そうさせて貰おう。お前たちがここにいるということは……?」


「はい!娘がSSSクラスに入ることになりまして!」


「私たちより才能のある自慢の娘なんです!」


「そうか。私の娘もSSSクラスだ。仲良くしてもらえれば、こんなに嬉しいことはないな」


 フレイアージュとヘインズ、マーサたちは式が始まるまでの間、互いの娘のことで盛り上がるのであった。

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