となりの異世界(ここ普通にお隣の国なんですけど!)

りるはひら

第1話 来ちゃった

生まれて初めての海外旅行、と言っても飛行機で3時間くらいの隣の国だ。

近いと言っても海外は海外だ、言葉も違えば文化も違う。ちょっとドキドキしてる。


そもそもなぜこんな時期外れに男一人で海外旅行しているのか。

今まで28年間、彼女と言える存在も無くただ真面目に仕事を続けて来たが会社の経営が悪化するとともに会社の本筋も見えて来てこの会社だめじゃん!と思う事が目に付くようになった。


真面目に見えた社長は一代で年商10億の会社まで育て上げ経営に関する知識も常に吸収し生かそうとするすごいと言える人だった。

しかしここ最近の不景気で業績は悪化して行った。しかも会社に借金の形で使い込みまでしており追い討ちをかけ社員の給与も減額、人員も減らされ中間管理職である俺は一気に忙しくなる一方だがそんな事はお構いなしに今までと同じ様に無駄な仕事を言ってくる。


今になって現場の情報を全て出せなど…

今までもあったが必死こいて情報を整理して現場を知らない上層部にもわかるようにまとめて提出して来たがそれが有用に生かされた事はなかった。

何とか現場を回そうとやっているのにあれを出せ、これはどうなんだと今まで何十回も説明して来た事を聞いて来た。


挙句に現場の数値に関する事で聞かれ確認しないと分からないと言ったら責任者は大体の数値でも把握しているものだと言われた。

その数値は日々変わりしかもそれを基盤として経営状況を判断するものなのに大体の数値なんか言ったらそれで方針が決まってしまうやつだ。

こんなのちゃんとした数字を確認して報告するものだろう… いや、報告自体はちゃんとしていた。

つまり報告書をちゃんと見ていないのだ。

思えば聞いてくるのはほとんどが報告してあることばかりだった。


はぁはぁ


思わず捲し立ててしまった…

そんなこんなで程なく会社を辞めた。

次の職を探さなければならないが良い機会だとリフレッシュに海外旅行を思いついた。

そんな時にアパートの郵便受けに入っていたチラシ。


気軽に異世界旅行!


がキャッチフレーズの旅行会社の広告だった。


あなたも異世界に行ける!

気軽に行けて気軽に戻って来れる異世界旅行!

普段とちょっと違った文化に触れて見ませんか?

現地では可愛いガイドがあなたをサポートしますので初めての方でも安心!


怪しさMAXだった…

行き先は… 隣の国じゃねえか!

どこが異世界なんだよ。


あれか?海外を異世界としてロールプレイする旅行なのか?

普通に観光するよりは面白いかもだが…


初めての海外だし…

か、可愛いガイド…


ちょっと検討してみよかな。


怪しいとは思いつつ何故か気になった。

俺はこの旅行に行った方がいい。

そんな気持ちになった…


そしてネットで調べ予約し現在に至る。

今は出発する空港で出国手続き中だ。

手続きも旅行会社の人が来て一緒にやってくれている。

真面目そうな男性の人で詳しく出国手続きを教えてくれた。


まずはチケット以外に入国カードというのが必要らしい。向こうで飛行機を降りてから入国手続きを行う際に提出するらしい。

それを書いたらチェックインを乗る飛行機会社のカウンターで行う。

パスポートとチケットを渡してトランクケースを預ける。

後は登場口に行く前に手荷物や身体検査を受けた。

検査は国内線でも同じだ。

ガイドはここから先は入れないので登場口の場所を教えてもらい別れた。

検査場を通ると出国手続きだ。

何やら自動ゲートが並んでいて係員はそばに一人だけ立っていた。


「パスポートをご用意ください」


なるほどここに立ってパスポートをこのパネルに載せるんだな。

お、前の画面で顔認証か。なんか思ってた出国手続きと違うな。

あっという間に出国手続きが終了した。そのまま搭乗口に向かう。


ここが登場口か。国内線の登場口とあまり変わらないな。

でも、待っている人達が外国の人が多い。

そして国際線と言えば免税店でしょ!


どこかな~

お、あそこかな?


「いらっしゃいませー、お菓子はいかがですか~全国のお菓子を取り揃えてますよ~」


ほんとだ南から北まで有名なお菓子が置いてある。

そういえばたばこが安いと聞いたな~

今じゃたばこは税金がほとんどだから免税店だとかなり安いらしい。

まあ、俺はたばこ吸わないからどうでもいいけど。

お酒も色々あるしブランド化粧品も・・・

うーん色々あるけど帰りに買えばいいかな。


(そう思ってたけど実際に帰って来た時は免税店あるところには入れないから結局買えなかった)


おっともう搭乗時間になるな、戻ろう。


国内線でも思うけど飛行機乗る直前のチケットチェックは何かドキドキするな。

国際線ともなるとパスポートまで調べられ、何か問題があって乗れないんじゃないかと思ってしまう。

まあ、普通に人生を過ごして来た俺にはそんな事も無いわけだが・・・

無事飛行機に乗り離陸した。

飛行機自体は国内線を嫌という程乗ってるので抵抗はない。

ましてや海外といっても3時間弱で着いてしまう距離だ。


「ポーン」


飛行が安定しシートベルトサインが消える。


たしか、サービスでお酒も飲めるはずだ。頼んじゃおうかな~


「すみません!」


忙しそうにしていたCAが手を止めこちらに来てくれた。


「いかがいたしましたか?」


「あのーお酒を頂けますか?」


「どのようなお酒にいたしますか?」


「何があるのでしょう?」


「こちらをどうぞ」


飲み物のリストが乗ったメニューを渡された。

ビール、赤ワイン、白ワイン、シャンパン、梅酒、ブランデーまでもあった。

ここは普段飲まないシャンパンにしてみよう。


「シャンパンを頂けますか?」


「かしこまりましたお待ちください」


席はエコノミーだがサービスはまずまずだ。

時期外れだからなのか席は結構空いている。俺の座っているところは3人掛けの窓側だが俺しか座っていない。前後もいない。

ゆったりできるな。


「お待たせしました、シャンパンでございます」


本物の瓶を半分にしたような小さな容器に入ったシャンパンが来た。

触ってみるとプラスチックだった。

流石に本物の瓶では持って来ないよね。

蓋を開け、一緒に渡された透明のプラスチック製コップに注ぐ。

シュワシュワと気泡が立ち上がり爽やかな香りが広がった。

一口飲んでみる。


おおー、これがシャンパンかー 初めて飲んだ!

口当たりがいいな。

が、ちょっと辛い。普段無糖炭酸ジュースを炭酸水で割った物しか飲まない俺の舌は困惑している。

なんだかんだで一瓶一気に飲んでしまった・・・


・・・


「お客様?」


ん?


「もうすぐ着陸態勢に入りますので座席とテーブルをお戻し下さい」


え? あれから寝てしまったのか?

慌ててテーブルと席を戻す。


お酒は強い方ではなく、缶ビール1本で眠くなってたからシャンパン一気のみなんてして寝てしまったのだろう。

身の回りを整え一息つく。


あれ・・・ 周りの客こんなに居たっけ?


ぴょこ!


え!あれって猫耳⁈

い、いや違うな猫耳カチューシャだな・・・

でも動いたような・・・


その人は座席に深く座ったのか見えなくなってしまった。


寝てたせいもあるがあっというまに着いてしまったな。

えーと、降りたら入国審査を受けて荷物を取ってガイドを探すんだな。

可愛いガイドを・・・


飛行機は初めての海外へ無事到着した。

飛行機から降りた瞬間に感じたのはまず匂いだ。

自分の国とは明らかに違う匂いがする。

なんというのだろう、香辛料とか砂の匂い? 埃っぽい匂い? がした。

土地も環境も違うのだから当たり前か。


ガラス張りのタラップを通る時に外の様子が見えた。ここが海外か!

今まで見たことの無い景色に海外へ来たという実感が沸いてきた。

そのまま、空港内を移動し入国審査場へ行く。

入国審査場は暗かった・・・

明かりが無いわけじゃないが少ないのか殺伐として薄暗い。

来た時は明るくて絨毯が敷き詰めらていて安心感があったがここは不安を煽る雰囲気だ。

審査台に列ができているが手前でこの国と人と外国から来た人で分かれており外国人の方へ行った。

待つ事20分くらいで俺の番になった。

チケットとパスポート、入国カードを渡す。

検査官が時よりこちらをららっと見ている。顔を確かめているのだろう。

待ってると何やら言って来た。

言葉が解らずわかりませ~んみたいな仕草をした。


どうやら下に設置してある液晶パネルとカメラを指示している。

画面には俺の国の言葉でカメラに顔を映してくださいと書いてあった。その通りにする。

次は指を画面下にあるスキャナーへ押し当てる絵が表示された。

親指以外4本一片に押し当てるらしい。

暫くすると今度は両方の親指だけを押し付ける表示が出た。


どんだけ撮るんだよ、人差し指だけで良くない?


そう思いつつ親指を押し当てた。


「ありがとうございました。良い旅行を」


あ?今何て言った⁉︎ 異世界って…

ここはこの国の施設だよな?

他の人が登録しているのが聞こえて来た。


「ありがとうございました。良い御旅行を」


普通だな… 聞き間違いか。

ロールプレイで異世界が刷り込まれているのかしれないな。


入国手続きを終え、荷物を受け取って出ようとすると人の列ができていた。

どうやら荷物をX線検査しているらしい。


くる時も検査してるのに入る時もやるのか…

さすが国際線。


検査も無事終わりいよいよ異世界に…

いや外国に突入だ!


ガイドさんがいるはずだが…


辺りを探してみると身に覚えのある文字が書かれた紙を持っている人がいた。その人に近づいてみる。

俺の名前が書かれている。


小島賢治 様


異世界へようこそが名前よりもかなり大きく書いてあった。普通は名前を大きく書くでしょ?

どんだけ異世界を強調したいんだ。


「あの…」


恐る恐る声をかけてみる。


「あ、コジマケンジサマデスカー?」


なんでカタコト?異世界へようこそ!は流暢だったぞ!

現地の人なのか?しかしどう見ても俺の国の人に見える。ハーフかな。


「あ、そうです…」


「OH!ヨウコソ!イセカイニ!」


徹底してるな…


「よ、よろしくお願いします」


「では、これからを説明しますのでこちらに」


え、また流暢に俺の国の言葉を!


「あのガイドさんこちらの方ではないのですか?」


「いいえ、生まれも育ちも小島さんと同じ国ですよ」


「え、じゃあなんでカタコト?」


「異世界の雰囲気を出してみました!」


フンスとやってやったという顔をするガイドさん。


… 大丈夫かこの旅行…



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