第8話 記憶の監獄

暴力的表現に類する表現あり。

自衛のほどよろしくお願いします。

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 目を開くと小学校に入学してすぐに仲良くなったヨウタくんがボクに向かって手を伸ばしていた。

 <意識>が脳内で鳴らす警報音を無視してその手を取ったボクに似た<身体>。

 ヨウタくんに手を引かれて走り出す先には見覚えのあるドア。

 1年2組の教室のドアに手をかけたヨウタくんに手を伸ばしてその手を止めなくてはと思うのに<身体>は動かない。

 <身体>はボクの身体のはずなのにボクの<意識>の言うことを聞かない。

 これから起こることを想像して震える<意識>。

 <身体>が教室に入ると笑顔のクラスメイトの輪の中に押し入れられた。

 見上げた先にあった光に<身体>が手を伸ばすとその手を掴んで引き上げられた。


 引き上げられた先で笑っていたのは3年生になったばかりのときに声を掛けてくれたエナちゃん。

 トレードマークだったフリフリのスカートを揺らして<身体>の手を引いて行った先にはエナちゃんのグループの子たち。

 <意識>が逃げろと言う声には耳を傾けない<身体>の前で握られた拳。

 震える<身体>を見限って<意識>が感覚を閉ざすと<身体>も耐えきれずに目を閉じた。

 <身体>が輪の中から引っ張り上げられる感覚に<身体>が目を開ける。


 目の前で微笑んでいる5年生のときの担任に<意識>は呼吸ができなくなる。

 手招きされて寄っていった<身体>に触れた生暖かい手の感触に<意識>は吐きそうになって、<身体>は涙を流しながら笑った。

 先生の腕に身を預けるしかない<身体>と感覚を共有しながら嗚咽を繰り返した<意識>が力尽きて倒れる。

 何者かが触れた感覚がして<身体>が目を開けると、1つの陰が先生から<身体>を奪い去った。


 明るい体育館に立っていた<身体>は中学に入学して部活で仲良くなったコウタロウくんに手を引かれて走っていた。

 何周も体育館の中を走って疲れてきたころに鳴った笛の音。

 体育館の廊下に向かう<身体>はコウタロウくんの声に足を速めた。

 いやだ、行かないで。

 耳を塞ぎながら叫んでいる<意識>を無視して角を曲がりかけた<身体>はぴたりと足を止めた。

 部活の仲間たちの嘲笑う声に耳を塞いだ<身体>を後ろに引っ張った力強い腕に身を預けた。


 幸せそうに笑ってダイくんと話す<身体>に<意識>は涙を零した。

 ダイくんは中学3年間同じクラスでずっと一緒にいてくれた。

 彼がいたから部活も諦めずに続けられた。

 団体メンバーに選ばれなくてもがむしゃらに努力するボクを励まし続けてくれた。

 ダイくんはクラス委員で信頼も厚い人気者。

 そう、ボクなんかが隣にいる資格があるわけがなかった。

 3年生のバレンタイン、忘れられないあのとき。

 <意識>は恥ずかし気にダイくんと向かい合った<身体>に背を向けた。

 冷たく嘲笑う声にうずくまった<身体>がふらつきながら立ち上がった先にあるオレンジの靄。


 足を止めた<身体>が震える手を靄に伸ばして止めた。

 <意識>は泣きながら<身体>を抱きしめる。

 <意識>も知らない未来。

 足を動かせない<身体>と<意識>の背中に触れた2本の腕。

 そっと背中を押されてふらついた先で伸ばされた2人の腕に抱き留められた。

 <意識>が<身体>の中に吸い込まれるように一体化すると、目の前が真っ白になった。




 ぼんやりしていると名前を呼ばれた気がして、真っ暗な視界を振り払おうと藻掻く。感覚がはっきりしてきて鼻につく香りと、硬いけど包み込まれるような温かさを感じる。今どこにいるんだろう、そう思って手を伸ばそうとするけど身体が思うように動かなくて焦る。



「聖夜!」



 低く心を震わせる声に全身がギュッと掴まれて、でももっと強く捕まえていて欲しいと心が欲張りな悲鳴を上げる。



「聖夜くん!」



 手を伸ばした身体を逆から強く抱きしめてくれる少し高い柔らかい声が焦った調子でボクの名前を呼んでくれた。2つのぬくもりに離さないでと嗚咽しながら縋る手を上から包み込んでくれた2つの手。


 ボクは安心して目を開けた。



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