第13話 ジーナの事を教えて

「ケネス殿下、どうされました?」


「あの……ちょっと聞きたい事が……って、なんで兄上もライアンも居るの?!」


「皆様、私に用があったようですので」


『あ、あれ? いつも優しいフィリップの声が刺々しいんだけど?! もしかして、邪魔だったかな?』


「あ……じゃあ僕はまた来るよ……」


「問題ありません。もうご用は済んだようですので。ねぇ、王太子殿下?」


「あ、ああ。問題ない」


『兄上?! なんだか怯えてません?!』


「ライアン殿下も、聞きたい事は終わりですよね? これ以上私が出来る事はありません。後は、ご存分にお調べ下さい」


『ライアン、何したの?!』


「……分かったよ。ごめん、でも僕はまだ納得しないんだ」


「どうぞ、ライアン殿下の思うままになさって下さい。やましい事は一切ありませんので」


騎士らしく敬礼をするフィリップを申し訳なさそうに見ていたライアンが、兄を促した。


「兄様はフィリップに御用だったんですよね? 僕らは出て行った方が良いですか?」


「いや……居てくれても大丈夫。って言うか、みんなに聞きたいんだけど……」


「どうした? ケネス?」


『兄上は……僕がジーナを好きだって知ったらなんて言うかな。もうバレてそうだけど……』


「あ、あの! フィリップに聞きたい事があって……その……ジーナは、どんな本が好きかな? 本だけじゃなくて、その、好きな物を教えて欲しいんだけど……」


「兄様……それってやっぱり……」


「ジーナ嬢が好きなの?」


兄弟に問われ、涙目で頷くケネス。フィリップは、優しくケネスの疑問に答える。


「ジーナは本ならなんでも好きですよ。女性が好むような恋愛小説から歴史経済まで家にある本は読み尽くしてますからね。ケネス殿下の好きな本を教えて頂ければ嬉々として読むと思いますよ」


「え……そうなの?」


「ええ、最もジーナが喜ぶのは、ケネス殿下のお好きな本を教えて頂く事です」


「……なんで?」


「主人の好きな物を知りたいと思うのは当然ですから」


「ななっ……なんで……フィリップも知ってるの……」


「先程、ジーナが来ました。ケネス殿下の侍女を調べたいと。妹の様子から、ケネス殿下に仕える事にしたと分かりました。妹を受け入れて頂き、感謝します」


「エレノアの事を調べるってなんで? まさか、エレノアは……ジーナに何かしたの?」


部屋の空気が、一気に冷える。慌てたビクターが、大声で叫んだ。


「違うから! ケネスの侍女なのにケネスの事を敬ってないって怒ってたんだよ! なんで俺達に教えてくれなかったんだよ! 問題ないって言ってただろ?!」


「問題ありませんでしたよ。昨日までは。部屋に来ないし、邪魔もしないし、理想的でした」


「仕事してないじゃない! ケネスが部屋に来るなって言ったの?! あんまり働いてないとは思ってたけど、メイドよりマシだから放っておいたのに!」


「僕の部屋には一度も来ませんでした。最初に彼女を選んだ時、なんでハズレなのよって言ってましたね。それ以来顔も見てません」


「……そりゃ、ジーナ嬢が怒るわけだよ……なんで言わないの……?」


「コロコロ変わるメイドよりマシかなと」


「はぁ……」


「あ、でもジーナは別です。フィリップ、ジーナに侍女の仕事も頼んで良いかな? 元々居なかったようなものだから、たいした仕事はないと思うんだけど……王子に侍女が居ないのはダメなんだって」


「お好きになさって下さい。ジーナは喜んで働くと思いますよ」


「それも相談したかったんだ。ねぇ、ジーナって働き者過ぎない? 僕の部屋、あっという間に掃除してくれたんだけど、ジーナは伯爵令嬢だよね? 無理してないかなって心配で」


「うちはあまり使用人を置いていませんし、母も他界していますのでジーナもニコラも私もひと通りの家事が出来ます。父の教育方針でしてね。どんな人に仕えてもやっていけるようにと、男女関係なく様々な事を仕込まれるんです。ですから、無理などしておりません。ご安心下さい」


「そうなの? でも心配だよ。食事もしないで働いてるし……」


「ジーナは昔から夢中になると食事を忘れる事が多かったですね。先程携帯食を渡しましたから、食べてくれると思います。ご心配頂きありがとうございます。お優しい方に仕えられて、ジーナは幸せ者ですね」


「僕なんかで……良いのかな」


「ケネス殿下、ジーナは、ケネス殿下が良いのです。そのような事を仰らないで下さい」


「ありがとう。フィリップ。ねぇ、ジーナは僕を慕ってくれてるように見えるけど……どうしたら僕を好きになってくれるかな……好きな子に結婚相手を探すって言われるの……結構堪える……恋人が居るんじゃないかって勘違いされたし……そんなの居ないのに……」


「ジーナはケネス殿下を尊敬しています。殿下に好意があるのは間違いありませんけど、愛情と敬愛は別物ですからね。妹には、ケネス殿下に恋人は居ないと伝えておきます」


「ありがとう……とりあえず頑張ってみるよ……」


「兄様、僕と一緒に作戦を立てましょう!」


「ホント?! ありがとうライアン!」


「ちょっと! ライアンは納得してないんじゃなかったの?!」


「それとこれとは別です。なんですか? ここで兄様に言います?」


「う……」


「なんの話?」


「なんでもありません! それよりフィリップ、ジーナ嬢って見た目からして派手な宝石とか嫌いだよね? 贈り物は嫌がるタイプかな?」


「はい。そうですね。プレゼントで気を引くのはやめた方が良いと思いますよ」


「僕、プレゼント用意しようとしてた……。やっぱり難しいなぁ。ライアン、教えて」


「分かりました! 僕の部屋に行きましょう!」


兄に頼られて嬉しい弟は、ケネスを連れて部屋を出て行った。


「なんで……こうなったの……俺だってケネスに頼られたいのに……ケネスが頼ってくれるなんて、滅多にないのに!」


「ライアン殿下の方が一枚上手だな」


「うー……今日は飲む! 付き合って!」


「俺、帰りたいんだけど……。父上に報告もしなきゃいけないし、ニコラに似顔絵も渡したいし」


「それ、ほぼ俺のせいだもんね。分かった、今日は諦める。だから、明日は付き合って」


「仕事が終わったら付き合ってやるよ」

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