フッた幼馴染を見返すために自分を磨いたら、メインヒロインが俺を攻略しに来た。

あおき りゅうま

第1話 きっかけ——幼馴染への告白は黒歴史

 黒歴史というのは誰にでもあると思う。


 俺にとってそれは幼馴染に告白したことだ。


「ゴメン……ね。せっかく告白されたけど、卓也のことはただの幼馴染にしか思えないんだ」

「あ、そ、そっか……わりいな……ヘンなこと言って」


 ショックで泣きそうになった、中学3年の夏休み前。


 幼馴染の橘陽子たちばなようこに告白した俺———黒木卓也くろきたくや

 家が隣同士で親が仲が良く、互いの部屋が窓をつたいに行きかい可能、俺と陽子の部屋の間はたった20センチ。だから、彼女は気軽に俺の部屋に来た。暇だからと。

 そんな遊び友達のような彼女との関係を———仲のいい幼馴染から恋人同士に発展させたかった。

 そんな俺の思いは———無残にも砕かれてしまった


「ちなみに、断ったのか……聞いていいか?」

「う~ん、私らの関係って今のままで十分かなって。仲のいい幼馴染同士で」

「そ、そっか……他に好きな男がいるとかじゃないんだな?」

「いるわけないじゃん。バレー部で忙しいもん」

「そっか……全国大会目指しているんだったな……」


 ウチの中学のバレー部は強豪で彼女はその中でエースのポジション。

 中学三年間の最後の華を飾る夏の大会も近く、それを目前にした陽子に告白なんて迷惑だったのかもしれない。


「———卓也はさ、もっと自分磨きなよ」

「へ?」

「髪だってろくに整えてなくて気を使ってないし、服もショッピングセンターの二階で適当に買ったやつでしょ? それに話し方も姿勢もどこか自信なさげでさ」

「ん、んなこと言われても……いままで気にしたことなかったんだから……」


「自分の身なりを気にしてないそんなカッコ悪い男と、一緒に歩きたいと思う?」


「—————ッ!」


 陽子の一言は、俺の頭に電撃を走らせた。


 俺は———甘えていた。


 と、言うことに気が付かせてくれた。

 一番身近に好きな女がいたものだから、一緒にいてくれたものだから、身だしなみを整えなくても、彼女は傍にいてくれて一生を添い遂げられるものだと思っていた。


「お前の———言う通りだ……陽子!」

「わかってくれたかね? だったら、自分磨きをしてみろ。カッコよくなってみろ!」

「———ああ!」

「そうそう、私今度の大会で全力を尽くして完全燃焼してバレーはもうやめるつもりだからさ。高校に上がったらまた告白して、」


「———俺はカッコよくなってお前を見返して見せる!」


「え……?」


 ポカンとしている陽子。


 なぜだろう? だが———俺は本当に彼女に感謝をしている。


 なぜならば、彼女に甘えて自分磨きを怠っていた俺に〝気づき〟を与えてくれたのだ。彼女がフッてくれなかったら、努力もせずに幸せを掴めると思い込む甘えた自堕落な人間になっていた。


 それではダメだと———彼女が教えてくれたのだ。


「見ていてくれ陽子。俺はカッコよくなる」

「うん……それはいいんだけど、その後が……」

「俺はカッコよくなって、どんな女の子でも攻略できる男になって見せる!」

「え、あ、うん……で、見返すって……何?」


 ありがとう、幼馴染の陽子。


 いつか———理想のメインヒロインを攻略出来たら、お前のおかげでこんなに可愛い彼女と付き合うことができましたと二人でお礼をしに来るから———。


 そして———俺は中学卒業と同時に故郷を離れ、一人暮らしを始めた。


 ◆


 俺は幼馴染に振られ自戒じかいをした。

 自らをいましめた。

 ただ漠然と一緒に過ごしているだけで彼女ができると思い込んでいたみずからを恥じ、今までの自分を捨てるために環境を変えた。


 つまりは新天地へと向かった。


 美里市みさとし———。


 小高い丘から、海沿いを走る市電を一望できる観光都市。


 生まれ変わるには絶好の場所だ。


 海も山も近く、観光地だから大きなショッピングモールもあるし、江戸から続く古くからの街並みもある。 


 ———季節、日常のイベントに事欠かない、ヒロインを攻略するには絶好の場所だ。

 だから、俺はこの地を選んで転校した。


「———よし」


 この地に住んでいるおじさんの経営しているアパートの一室を借り、俺はここで新生活を始める。

 今までのカッコ悪い自分を捨て去り、これからは女の子が隣に立っても恥ずかしくないようなカッコイイ男になると決めた———俺の新生活を。


 そのカッコいい男の参考にしたのは————ギャルゲーだった。


 誰もがうらやむ甘いイチャイチャが繰り広げられる甘々ギャルゲー『アマキス』。過去に一度気の迷いでプレイした〝それ〟が陽子にフられた時の俺の頭によぎっていた。

 そのゲームはコンセプトとして「勉強やスポーツを頑張り、ステータスを上げ、ヒロインそれぞれに設定された攻略可能ステータスに達したら、女の子と付き合うことができる」というゲームだった。

 俺もそれにならおう。

 ジムに通い、体を鍛え上げ、独学で学力を上げ、中学を卒業するころには学年五位にまで入った。髪型もワックスやスプレーを使って気を遣うようになったし、ファッションは……できればいいものを着たかったが、メンズブランドの服は需要がレディースに比べると低く、妙に高額に設定されている。なので流石に中学生の小遣いでは手が出しにくかったので、ユニ○ロで我慢した。

 だが、ファッションはコーディネートが大事だ。つまりは、素材が安くても工夫次第で乗り切れる!


 よし———!


 美里高校のブレザーに袖を通し、ピシッと襟を正して気合を入れる。


「おはよう———新しいオレ!」


 鏡に向かってご挨拶。

 生まれ変わった俺はカッコいい……はずだ!


 今日は登校一日目。


 ギャルゲーのように女の子を攻略して見せると決意し、アパートの扉を開けた。

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