青春ってなんだ?②

5、6限目を終えクラスメイトが帰った後、有松先生の言われたとおりに教室に残る。

うちの学校は基本6限なのだが月曜と水曜は7限まである。そして今日は火曜日。つまり時間があるのだ。


待つこと数分。


有松先生と二人きりになる。二人きりという表現は「異性と二人きりでドキドキしちゃうっ」みたいな場面で使われることがあるけれど、この教室には野郎が二人いるだけでドキドキなんてするわけがない。


「それで、有松先生。要件は何でしょうか」

「まぁまぁそんな焦らず焦らず、ゆっくりと行きましょうか」


嫌な予感がする。


「まず、先生が呼んだのは、お願いがあるからです。ぜひ乙川に「思春団ししゅんだん」に入ってほしいのです」


的中した。


有松先生は改まった口調でそういうと有松先生は自身のポケットから画面にひびが入ったスマホを取り出し、一つの某SNSアカウントを俺に見せてきた。

そのアカウント名には「思春団」と綴られている。

そして、プロフィール欄には「『県立香流高校思春期応援団』略して『思春団』です!香流高校に在籍している生徒が運営しているアカウントです。悩み、解決したいこと、なんでも気軽にDM、または三階空き教室に来て相談してください。あなたの青春、僕に手伝わせてくだい!!」と記載されている。

いや、胡散臭ぇ。胡散臭いがすぎるぞ。


「宗教かなにかの勧誘ですか?そういうの大丈夫なんで遠慮します。ていうか教師が生徒に宗教勧誘しないでくださいよ。失望しました」

「いやちょっと待ってよ、宗教勧誘じゃないって、乙川は厳しいなぁ~」

「じゃあなんなんすかこれ」

「県立香流高校思春期応援団、長いから略して思春団。少年少女のお悩みの解決をあの手この手で助ける、要は何でも屋だ。」


理解は出来ただが、納得はしていない。

まず、なぜ俺がそんなものに参加しなきゃならんのか。


「納得していない感じだね~」


バレた。


「そりゃあそうですよ。なんで俺を勧誘したんですか?」

「だって放課後暇そうじゃん。どうせ、部活も入らないしやることない人でしょ。僕と一緒に青春おくろ〜よ」


クソっ。

言い返せねぇ。確かに俺はどの部活にも入るつもりはないし、バイトもするつもりはない。第一、バイトは校則で禁止されている。

やりたいこともないし、やらなければならないこともないが、やりたいことがなくたってやることを選ぶ権利はあるだろうに。

あと、だれがおじさんと青春するか!


「悔しいですが僕がやることのない暇人だというのは認めましょう。ですけど、そんなめんどくさそうなことしたくありません」


そう告げ、荷物を持って教室から出ようとした刹那、ポケットの中のスマホがピロンと音を立てて振動した。

何かの通知が来たらしい。絶賛スマホ依存症で現代っ子な俺は通知が来るとつい確認してしまう。

いつものようにポケットから取り出すと、スマホのロック画面にはこう書かれていた。


『思春団さんにフォローされました』


おい


おいおい


おいおいおい


聞いてないぞ、こんなの。

なんで有松が俺のアカウント知ってるんだよ。リア友誰ともつなげてねぇぞ。

これは非常にマズい。何がマズいかってこのアカウントは俺の趣味のアカウントだ。普通にR18がかかるイラストだっていいねしているし。見られたくないものだってフォローしている。なにより俺の性癖についての投稿がある。

つまり、このアカウントを見れば一瞬で俺の性癖が理解できる。言わば、乙川響の性癖取扱説明書なのである。性癖取扱説明書という日本語の最底辺に位置するような言葉を使ったが、通常の取扱説明書との相違点があるとすればそれは人に読まれたら終わるというところだ。


「市立朝宮中学校3年3組出身乙川響。1年時から委員会に積極的に参加しており、3年時には図書委員長を務め、いつもクラスの中心にいる存在。また、それだけではなく部活動の副部長も務め、面倒見が良い。といった感じでまさに思春団にはピッタリ」


有松先生は作られた原稿を読み上げるように淡々と俺の経歴を晒していく。「晒していく」といってもこの教室には有松先生と俺しかいないのだが。

違う。そんなことはどうだっていい。

教師だとしてもなぜそこまで知っている。まさか調べ上げたのか?おかしいだろ。

焦っているからなのか頭がいつも以上に回る。

こんなに頭が回ったのは小学校の夏休みの登校日、みんなが俺の知らない宿題を回収し始めた時以来だぞ。

この有松は変人教師として有名だが、これじゃあ変態教師に格落ちだ。


「そんな君がまさかこんな癖だったとはね~。僕も正直ちょっとギャップに驚いたよ。君がドMなのも犬なりたいと考えるのも自由だけど、この驚きは僕だけにとどめておいたほうがいいと思うよ~」


俺もたった今、高校生から変態高校生に格落ちした。


いつもの砕けた口調に戻って俺に話しかけてくるが、内容は異質なままである。しかもこの教師いつもは苗字呼びのくせに俺のことを「君」と言ったぞ!

完全に生徒ではなく一人の交渉相手として見ていやがる。


「........................つまり、何が言いたいんですか?」

「乙川が思春団に入団するかしないか強制するつもりはないけど、これだけは伝えておこうかな。もし君から良い回答が得られたら思春団は君を全力で歓迎するよ」


そんなの......


そんなもの......


選択肢は一つしかないだろう。


「僕を思春団に入れてください!!!!!」

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