第29日 異世界VS日本食 補遺の8 Allez Cuisine!

 ――私の記憶が確かならば。

 ――「よみがえるがいい! アイアン・シェーフ!」


                『小説 料理の鉄人』


 倉庫を改造したという巨大な空間。闘技場を模した階段状のしつらえ。

 見上げるばかりの天井には、無数のライトに囲まれて、ヴェネチアン・グラスのシャンデリアが輝く。

 その真下、大理石の階段の踊り場。西洋の棺桶を思わせる腰高の台の上、真っ白い布の下には今日の『食材』が、静かに目覚めを待っている。


 ――準備は整った。


 スタジアムの壇上から、男が二人の料理人を見下ろす。そのほほに浮かぶ満足そうな笑み。

 そう。美食アカデミーの主宰たる彼にとって、この勝負の行方はさして重要ではない。

 まさにここに――この瞬間、この場所に。

 最高の食材と最高の料理人二人を招きえたことこそ、その本懐。

 男は深い愉悦とともに、黒い革手袋をはめた両手を宙に向かって差し出した。


「アレ・キュジーヌ!」


 ……あの『キッチン・スタジアム』が存在したのは、20年も前の事。


◇◆◇


『料理の鉄人』はフジ系列で放送されていたバラエティ番組です。

 当時料理マンガの世界で先行していた「料理バトル」の大仕掛けを、現実にスタジアムこさえて、本物の料理人にやらせてしまったというすっごい企画。

 そして。この番組には

『小説 料理の鉄人』(小山薫堂 著)

という1994年第一巻を発行し、続刊して全五巻のノベライズが存在しています。


 著者の小山氏は脚本家で放送作家。さらには番組を企画した方。

 作中の料理人は実在のご本人が実名で登場。書いているのはほぼ原作者な人という伝説の企画のノベライズ。なんとも贅沢な話。

         

 鹿賀丈史さん演じる狂言回し役――『主宰』の決め台詞「アレ……」の日本語読みは、情報関連サイトでは直訳の「ゆけ!調理!」とか「料理開始!」になっているのですが(限りなく『公式』な立場の)この小説では、少々趣の異なる読みが採用されていて面白いです。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る