第5話 躍進

 思わず生唾を飲み込んでしまう。


 ステータス画面で最初に目に入ってきたのは、レベルアップだった。


「レベル、15……」


 レベル5から一気に10もレベルが上がっていた。


「え、バクシーさん!それマジっすか! レベル10の壁を越えたとか、いっぱしの中級冒険者級ですよ!」

「ああ。それとシジー、少し落ち着け。何より近い」


 ぐいっと間近にあった顔を押しのけると、ステータスの確認を続ける。


「ふぎゃっ! ひどいっすよ、レキの兄貴~。乙女の顔をそんな乱暴に……」


 いつの間にか俺への呼び方が変わっている。俺は気もそぞろに、シジーに向かって、はいはいと手を振ると、ステータスを読み込んでいく。


 ──レベルアップにあわせて、各種パラメータの数値も軒並み上昇しているな。これを履歴書に書けば、ついに合格通知がくるんじゃないか。おっ、お祈りポイントも1増えている。そうか。さっきのシストメア様への感謝か。ある程度時間が経つと祈りを捧げられるのかね。……うん? なんだろ、これ。


 そこで、シストメア様からもらった加護とはまた別の項目があることに気がつく。


 ──眷族召喚ワーウルフって書いてある。オリジンを倒してさっきの出てきた石を拾ったからか?


「眷族召喚」


 俺は試しに呟いてみる。次の瞬間、足元に魔法陣が広がる。


「きゃっ」


 近くにいたシジーの悲鳴。そしてボフッという煙とともに、それは現れた。


「ゲホっ。なんっすか、いきなり。……レキの兄貴っ! それ! それっ!」


 咳き込み終わったシジーの指差した先には、一匹の子犬がちょこんと座っていた。


「かわっ、かわいいっすね、レキの兄貴!」

「ああ、確かに。なあ。お前、眷族とやらなのか?」


 俺はしゃがみながら子犬に向かって手を差し出してみる。


「ばぅ」


 子犬らしくない低音ボイスな鳴き声をあげると、とことことこちらへ歩いてくるそれ。そのまま差し出した俺の指先をペロペロとなめてくる。


「うわー。レキの兄貴いいなー。ほら、こっちっすよー」


 真似して手を差し出したシジー。

 プイッとそっぽを向く子犬。


「な、なんっすか、それー。ずるいっすよー。レキの兄貴ばっかり。ほーらほら。よしよしおいでーっす」


 わーきゃーと、シジーがうるさい。


 そっぽを向いたままの子犬の頭を俺が優しく撫でると、こちらを向いてくる。そっと目線だけで、俺は子犬にシジーの方を示してみる。


 すると、不思議なことがおきた。なんとなく子犬と、意図が通じたのだ。

 まるで、仕方ないですねと、子犬が俺の頭の中で言っているかのようだった。


 俺の単なる思い込みかと一瞬うたがうも、実際に子犬はしぶしぶと俺の手を離れて、少しだけシジーの方へと歩み寄っていく。そして、ちろっとシジーの伸ばした手をひとなめする。


「わっ! きたっす。ワンちゃん、かわいいっすねー」


 ばっと子犬を抱き締めるシジー。

 子犬はとても不満そうに、こちらを見てくる。俺はなんとなく片手をあげて謝っておく。


「それでレキの兄貴っ。この子の名前はどうするっすか?」

「名前かー。うーん」


 子犬から、格好いいのがいいです! と伝わってくる。


 ──格好いいの? うーんまあ、今は可愛らしい子犬だけど、良くみると四肢は太いし大きくなると格好いい感じになるのかもな。それなら……


「じゃあ、ガルナタタンってのはどうだ」

「ガルナタタン……ガルちゃんっすね。いいんじゃないっすか」

「ばうっばうっ」


 ガルナタタンもシジーの腕のなかから飛び出すと、俺の足元にきて鳴き声をあげる。


「よろしくな、ガルナタタン」

「ばうっ」


 肯定の意思を感じて、俺は片ひざをつくとガルナタタンの頭を優しく撫でてあげた。

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