第34話 まあるい虹と龍神(2)

子供たちは神のごときオーラを放っていた。これは、神が憑依しているという証だ。

颯さんは子供たちの様子を窺いながらも白龍と対面していた。


虹の中に姿を現した白龍は、神の威厳を全身からさざ波のように放ち、優雅で恐ろしい位に美しい。

その美しさは思わずひれ伏したくなるほどであった。私は神の威厳と美しさに声を失っていた。


白龍は颯さんに声をかけてきた。

「颯よ。久しいのう。何年ぶりじゃ?」

「白龍、久しいな。200年ぶりだ。」


「何じゃ、まだそんなものか。もっと経っているかと思ったぞ。」

「人間界では十分な時間の流れだぞ。前は徳川の時代だった。」

「そうか、そうじゃな。あの時そなたに助けてもらった事は決して忘れてはおらぬ。」


私はその会話を静かに聞きながら、目の前にいる白龍とは何かしらの戦いがあったことは想像できた。

こういう会話を聞くと改めて颯さんは七百年間様々な戦いをしてきたのだと認識させられる。


「うちの子供たちと話をしたようだな。」

「直接其方と繋ぎはとれるが、子供たちと話がしたかった。それに、奥方と会いたかった。」

白龍はそう言って私の方を見た。


「そうか。で、今子供たちに降りている神は?!」

「奥方と話をしてから話す故、焦るでない。」そう言って、


「其方が颯の奥方か。吾はこの地を守る白龍じゃ。以後見知りおくが良いぞ。」


「明日香、この地を収めている白龍だよ。縁あって200年前に出会った。」


「お初にお目にかかります。霧島明日香でございます。」と、私は頭を深く垂れ精一杯の挨拶をした。


「よいよい。堅苦しい挨拶は抜きじゃ。しっかりしておるし可愛い奥方じゃな。気に入ったぞ。颯よ、大事にするが良い。」

「言われなくても大事にしている。明日香は私のかけがえのない存在だからな。」


「ほっほっほ!奥方にぞっこんの様じゃな。昔、其方が吾を救ってくれた時のあの姿からは考えられぬな。あの時は炎を纏う剣と、縄を持ち、鬼の形相をした不動明王の姿そのものだったというに。変われば変わるものよのう。奥方は鬼神のごとき其方の姿は見ておるまい?」


「明日香は私と魔物浄化に行っているから私の姿は知っている。明日香は私を助け、良く働いてくれている。私の宝だ。」


「何と!吾の知らぬところでそのような事になっていたとはのう。いやはや、長生きはするものじゃ。これもそなたに助けられたからよのう。その恩に報いる為にも吾はこの先も其方の力になるつもりぞ。」


「その言葉で十分だ。それ以上は何も望まない。」

「ふ。そういう無欲なところが不動明王の眼に止まり、オオカミながらも其方を自身の名代にしたと云う事やも知れぬな。まあよい。其方らを呼び出した目的を話そう。」


「そうだな。」

「吾ら眷属は天帝と人間の間に立ち、人間の声を天帝に届け、天帝の言葉を人間に伝える。

更には人間の魂の成長を見守り、人間が作ってしまう魑魅魍魎も、巨大化して危険なものは浄め天帝に報告をする。そういう役目なのは知っておるな?」

「ああ。」


「其方は不動明王の名代として魑魅魍魎どもを一人で浄化しながら愛する女の生まれ変わりを待って結婚した。其方の存在は吾ら眷属からすれば異質な存在であり、排除しようと考える者もおる。今の其方の立場は人間でも眷属でもない。これから先も狙う眷属はおる。そして、其方と結ばれた奥方と子供らも狙われる。今は儂が止めておるがな。」


「それは知っている。過去何度も魑魅魍魎に化身した眷属神に消されそうになったからな。」

「え!!そうなんですか?」と、私は驚愕し、大きな声を出した。


「ああ。明日香には話さなかったが、私はあやかしとして現世に来てから狙われていた。そして明日香と出会って結婚し、仁と天が産まれてから余計狙ってくるようになった。」


「そんな!どうして!颯さんは何も悪い事はしていない。七百年間私の事を待ち続けながら現世のために浄化をしてきたんです。それの何が悪いのでしょう?!私はそんな颯さんを心から愛しています。

優しくて穏やかで、だけど勇猛で、私に寄り添ってくれて、いつも元気をもらって、どんな言葉でも言い尽くせない、かけがえのない存在です。颯さんも仁も天も不動明王様が私に与えてくださった宝物です。あやかしなんてことは関係ない。誰も・・、例え神だとしても、颯さんの事を排除しようなんて云うふざけた事は考えて欲しくない!!そんな神なんて、くそくらえだ!」


私はめちゃくちゃ腹が立ってしまい、思わず愛の告白と同時に汚い言葉で眷属神を罵倒した。

「明日香、落ち着け。」そう言った颯さんは、嬉しそうな照れたような顔をしている。



「ほっほ!奥方も颯にぞっこんじゃな。物怖じしないようじゃし、益々気に入った。其方の事はこれから”明日香”と名で呼ぼうぞ。其方も吾の事は”奏白そうはく”と呼ぶが良いぞ。」


「・・!良いのか?名を教えて・・。名を教えると云う事は・・。」

「良い。吾は明日香が気に入ったのだ。明日香は無闇矢鱈な事はすまい?」

「ああ。それは保証するが。そうか、有り難い事だ。」

颯さんは動揺しつつも奏白様に感謝していた。


「奏白さま。興奮してしまい失礼なことを申し上げました。申し訳ありませんでした。」

「大事ない。其方の颯への思いがそう言わせたのだ。それに、さっきの言葉は吾に言うた事ではあるまい。」そう言って許してくれた。

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