第12話 ひな人形の怪(3)
その瞬間ぶわっ!と音がした。白い煙がもやもやと漂った後すぐに消えた。視界が戻った私達の前に立っていたのは非常に美しい顔立ちの白拍子だった。
年齢は20歳前後。ツヤツヤの黒髪、白い肌、シュっとして細く整った眉、切れ長の目に鼻筋がすっと高く小さく整った
そして手に扇、腰に太刀、頭には立烏帽子、狩衣に似た
おびただしい数のひな人形は物言わぬ元の人形になって散らばっていた。
「よく私だと気づいたな。私の気配は消して人形どもの邪気を取り込んで身に纏っていたはずなのに。」いつの間にか女性の声だけになった。
人間の姿となった颯さんは
「先ほどまではっきりと分からなかった。だが、お前が喋ってくれたおかげで気付いた。」
「ほほ!吾と分かっても何も出来まい!出来損ないのあやかしと下等な人間風情、吾とは格が違うからな。」そう言って、綺麗な口元に弧を描き、歪んだ笑顔を見せた。
その瞬間背筋に嫌な汗が流れ、鳥肌が立って悪寒が走った。相当ヤバい奴だ。綺麗な顔して言う事は辛辣だし、一瞬でも見惚れてしまった私は後悔した。こんな奴全然綺麗じゃない。醜い化け物だ!
「どうして瑠衣をあんな風にしたの?!彼女を元に戻して!」私は思わず叫んでいた。
「ああ、あの女か。ほほほ!吾の一部になる名誉を与えたまでだ。あの女の心は吾と似ていたからな。もうすぐ吾と同化する。」
「似ている?!どこが?彼女の心は綺麗だよ。貴女なんか歪みまくってるじゃない。彼女と一緒にしないで!」すると、歪んだ笑顔をさらに深くして、
「は!!これだから下等な生き物は疲れる。あの女のどこが綺麗と言う?!苦しみ悲しみ、心の奥底には憤怒と怨嗟の炎が渦巻いているというのに。それを隠しながら生きていくよりも吾と同化して報復出来た方がどれだけ救いになるか。お前のような生温い世界で生きてきた人間には分かるまい。親に疎んじられ捨てられた者の気持ち。お前などには到底理解出来ぬ。」
「瑠衣はそんな事望んでない。勝手なこと言わないでよ!確かに彼女の生い立ちは辛くて苦しかった。心の奥底に恨み、怒りを持ってるのは否定しない。だからと言って彼女はそれで報復しようなんて考えない。それに今瑠衣は前向きに生きてる。私はそんな彼女が好きだからこの先ずっと友達でいたい。貴女は単に人間の負の感情を養分にしたいだけじゃない!」
「そういうのを
「絶対お断り!!」
「明日香やめるんだ。お前が怒るように煽ってる。人間の怒りと苦しみの感情は妖鬼の大好物だからな。それを自分に取り込んで今もここにいる。公家だったというのに憎しみに囚われ妖鬼に落ちてしまったんだ。」
妖鬼の肩がピクッと僅かに揺れた。
「お前に何が分かる!お父様にもお母様にも似ていない鬼の子供と言われ、産まれてすぐに暗い牢へ放り込まれ18年間居ないものとして扱われた。吾が辛うじて生きられたのは、お父様に不義を疑われたお母様も一緒に牢に入れられたからだ。お母様は自分の潔白を訴え続けたがお父様が聞く耳を持たなかった。お母様は絶望の中私を庇い食事も何もかもままならぬ中、必死に自分を奮い立たせて何とか育ててくれた。だが吾が15歳の時無理が祟って悲しみと苦しみに塗れて亡くなった。お母様が亡くなり、吾は孤独と戦いながら3年必死に生き永らえていた。そんな時、天災、飢饉、疫病が国中を襲った。この難局を乗り超えるには神に位の高い男女の生贄を捧げよと、どこぞの占い師が言った。その生贄に選ばれたのが吾と御上の
何と壮絶な人生・・・・。自分は何も悪いことはしていないのにそんな理不尽な事をされたとは。
確かに世の中を恨み、憎みたくなるだろう。
でも、だからと言って関係無い人を巻き込むのは違う。この世に災いを
瑠衣は必ず返してもらう。
「もう一度現世に帰って来ればいい。」そう颯さんが言った。
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