第4話 精霊の笛

第3話 精霊の笛


本堂で結婚式を挙げ、庫裡くりへ移動して20畳の和室で内輪の宴会だ。母が朝から腕によりをかけて作ってくれた心尽くしの御馳走が並んでいる。

唐揚げ、エビチリ、コブサラダ、酢豚、茶碗蒸し、マカロニグラタン、鯛飯、ローストビーフ、刺身盛り合わせ等々。私の大好物ばかりだ。デザートは私の大好きなケーキ屋”あすなろ”特製のフルーツがたっぷり乗ったデコレーションケーキ。嬉し過ぎる。


内輪で気兼ねも無いしめちゃくちゃお腹すいたので花嫁衣裳のまま大口開けて食べようとした私に待ったを掛けたのは母だった。



「着替えようか。」とニッコリほほ笑んだ母。背筋に悪寒が走ったのは言うまでもない。


そんなやり取りを父と兄は苦笑いし、瑠衣は爆笑、颯さんは穏やかな微笑みで見つめた。


*****


結婚式から一か月経ったが夫婦となっても生活は何も変わらなかった。

変わったのははやてさんが家にいるという事だった。ただし家族だけしか姿が見えない。


結婚式を挙げ、初夜を迎える心の準備をしたが、颯さんは「来たるべき時が来るまで待つよ。」と謎の言葉を言った。

その言葉が分かるのは5年後だった。


私は相変わらず笛を吹いているが、普段の練習に加えて精霊の力を習得するため頑張っている。

確か大地、樹木、水、空気、草花、風、動物、雲。だったっけ。

願いを込める…。どんな風に願えば良いの?

「大地の精霊さん。力を貸してください。」そう願ってド、レ、ミと順に音を出してみた。が、何も起こらない。


「う~~~ん。どうすればいいの?」

「ただ力を貸せと言っても駄目だ。」と颯さんの声がした。


「守るというのはどんな感情だと思う?」

「守る?考えたことなかった。」


「守ることは”好き”という意味でもある。好きだから守りたいと思う気持ちがある。この気持ちは何物にも代えがたいものなんだよ。」

「好き・・。思う気持ち・・」


「この気持ちは人間の生み出す恨み、妬み、恐怖、と言った負の感情を祓い除ける力がある。魔物とは人間の負の感情の集まったものだから」衝撃の発言だった。

「魔物って人の感情の集まりなんですか?!」

「そうだね。人間が無意識に魑魅魍魎を作ってるんだよ。」衝撃過ぎて言葉が出なかった。


「明日香は毎日どんな感情で過ごしてる?笛を吹く前、どんな気持ち?」

「優しい気持ちや嬉しい気持ち、あと悲しんだり怒ったり、かな。」


「その気持ちを笛に込めて曲を吹いているとどんな感覚になる?」

「いつの間にか無になります。そして癒されてます。」


「同じ曲を違う感情で吹いて同じ音色になる?」

「ならない。」


「気持ちが音に乗り移ってるってことだよね。」

「はい。」


「それが祓うという事だよ」

「あ!」


「答えは出たんじゃない?」

「ありがとうございます!修練します。」


そう言うと、颯さんはふっと優しい微笑みを向けてくれた。


颯さんからアドバイスをもらった私は目を瞑る。

深呼吸をして心を落ち着かせ、無になる。子供のころから座禅を組んでいたので雑念はすぐ消えた。


宇宙と繋がっているような不思議な感覚がする。精神統一をして笛に気持ちを集中させる。


「人の心が平穏でありますように。幸せでありますように。どうかお願いします。」そう祈った。

とっさに思いついた曲は”青狼の笛”。神秘的で、情感豊か。

静かに音を奏でる・・・。


すると・・。大地からゆらゆらと煙のように気が立ち始め、それは一気に山全体を包んだ。

風がサワサワと吹き始め、木々がざわざわと音を立てはじめた。段々風は強くなり渦状になって明日香の身体を包みヒューっと空にかけ上がっていった。木はキィキィという音をたて鮮やかな緑の葉っぱが少し舞い落ちた。


雲が集まり始め、突然さあーっと雨が降り出した。一瞬の出来事だったが優しい甘露な雨だった。

足元の草花は水を含んで葉がツヤツヤして、今まで咲いていなかった花が一気に咲いた。

空にはいつの間にか大きな虹が掛かっていた。


「素晴らしい!初めてにしては上出来だ。ここまで出来るとは」と褒めてくれた。

「ありがとうございます。颯さんが助言してくれたおかげです。」と返した。


「修錬すればもっと使いこなせるようになる。」

「はい。頑張ります。」


「焦らなくていい。頑張ろうと思わなくていいから。」そうアドバイスされた。


でも早く颯さんの役に立ちたいんです・・。いつの間にかそんな感情が芽生えていた。

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