第6話 血に染まる残雪 シャルロッテ
俺は下城して北都ノースウェルへと舞い戻る……のではなく、王都の中を歩いている。
俺は領地を得て、その御触れはすでに王都に広まっている。つまり俺はもう有名人であり、信用がある人間だ。だからできることがある。
とある長屋の扉の前にたどり着き、コンコンと扉をノックする。
「……何の用だ?」
扉を開いて中から出てきたのは、雪のように白い少女だ。見た目の年齢は高校生くらいだろうか。
髪も肌も病的なほどに色白で、身体もすごく細くてまるで人形みたいに見えてしまう。
少女は暗い表情で俯く、まるで生きる希望がないかのように。酒の匂いもする。
まるで生気を感じられない、とても役に立つとは思えない者……だが俺にとって必要不可欠の武将だ。
「私はフーヤ・レイクです。はじめまして」
「……!? そ、そんなお方が私に何の御用ですか……」
少女は敬語こそ使うものの、一瞬だけ不快そうな顔になる。これは嫉妬の類だ、俺が戦場で手柄を立てたことを知っている証拠でもある。
彼女の名はシャルロッテ。天才的な武の才を持ちながら、その力を発揮する機会を得られない猛者。
そしてすでに病を患っていて、ゲームの史実通りなら後半年以内に病死する。すでに症状が出始めているころだろう。
彼女はその優れた才を振るう機会すら得られず、失意のどん底で死亡するのだ。
ゲーム上でもセリア姫より先に死ぬので、シャルロッテもまたプレイヤーが使えないキャラだった。
ゲームプレイ中に不運の武将として彼女の話題が出るのと、キャラデータが存在していたのだが使えないのだ。
おそらくセリア姫を救うシナリオで、活躍させる予定だったキャラだと思う。つまり追加シナリオが発売中止になった瞬間、出番のないまま終わるのが決まった者。
俺はセリア姫から頂いた、ノースウェル領主である証明の印章を懐から取り出した。
「私は貴女を臣下にしたいと思っています。一軍の将として迎え入れたい。どうでしょうか」
「……っ!」
俺は彼女を配下にするためにここに来たのだ。
シャルロッテは目に涙を浮かべて、信じられないといった顔をする。
当然だろう。シャルロッテは特に戦場で手柄を立てたこともない。そんな者をいきなり一軍の将で雇い入れるなど怪しすぎる。
だからこそ鬼を破って手柄を立てる必要があった。国のお墨付きなしでは信じてもらえないから。
「で、ですが……私は、病を患っていて……おそらくまともに動けるのはあとわずかで……」
「構いません。貴女のその僅かな時間を頂けませんか?」
そう構わないのだ。
シャルロッテは死災への対策要員として欲しい。そして死災はあと半年以内に全て発生する。
つまり彼女が動ける間に全て起こる可能性が高い。というか最悪、次に発生する満潮亡霊の時だけでもいい。
この災害だけは、シャルロッテの力がどうしても欲しいのだ。
シャルロッテはバシンと自らの両頬を叩いた後、ポロポロと涙を流し始めた。
「……もはや鍛え上げた武の振りどころを失い、何も成せずに死ぬとばかり思っておりました。どうかこのシャルロッテを、フーヤ様の臣下にしてください。全身全霊を持って、命を振り絞ってお仕えいたします……!」
「感謝します。ではこれよりはよろしくお願いいたす」
「ははっ!」
シャルロッテは俺に対して頭を下げる。
よし、これで期間限定だがトップクラスの武将を手に入れたぞ。
俺は『天眼』スキルを発動する。シャルロッテの周囲に、ゲーム画面のような空中ディスプレイが現れた。そこには文字が記載されている。
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シャルロッテ
攻軍:LV100
防軍:LV40
内政:LV1
魔軍:ーー
スキル
『粉骨砕心』
(攻↑↑、防↓↓、精神異常無効)
『暴走狂奔』
(攻↑↑↑、防↓↓、命令不能)
『血に染まる残雪』
(攻↑↑↑、防↓↓、撤退不可)
『黄泉の道連れ』
(寿命が近いほど攻撃力上昇)
兵科陣形
『狂々・血雪陣』
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シャルロッテは超攻撃特化猛将キャラだ。史実の人物に例えるなら……たぶん三国志の呂布だろうか。
最大値の攻軍能力な上に、スキルも火力を上昇させるものが揃っている。
その火力は『アルテミスの野望』でトップ。トップクラスではなく、ダントツで一位だ。
…………代わりにちょっといやだいぶデメリットが多いけど。
戦っている間にどんどん攻撃力が加速度的に上がってく半面、防御力は逆に下がっていく。
もし全スキルが完全に効果を発揮したら、攻撃力十五倍に上昇して防御力一割に下がるとかやらかす。
他にも命令不能とか色々とデメリットはあるが……。
とにかく! このシャルロッテという武将が必要なのだ!!
なにせあのセリア姫を助けるのだから、人手はいくらあっても足りないからな。
……ついでにセリア姫のステータス思い出してしまった。
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セリア姫
攻軍:LV1
防軍:LV1
内政:LV8
魔軍:LV5
スキル
『三魔・無能の呪詛』
(攻↓↓↓、防↓↓↓)
『三魔・不運の呪詛』
(内政↓↓↓、魔軍↓↓↓)
『三魔・思乱の呪詛』
(全能力↓↓↓)
『建国帝の血』
(全能力↑↑↑)
『三魔・滅びの呪詛』
(敵運↑↑↑)
兵科陣形
『真・聖王陣』
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…………能力値、十段階評価だったらよかったのにね。いやそれでも弱いけど……。
「よし、明日の朝には王都を出てノースウェルに向かいたい。それまでにこの長屋を出る準備は可能か?」
本当ならもう少し猶予期間を与えたいが、なにせ時間がない。急いで戻る必要があるのだ。死災が二、満潮亡霊の発生が迫っている。
「もちろんです! なんなら今すぐにでも!」
「いや荷物まとめたりとか、別れの挨拶がいるだろう。悪いが明日の朝に」
「ははっ!」
そうして俺達は王都を出て、ノースウェルへと向かうのだった。
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シャルロッテのステータスから漂う不穏臭。
セリア姫? まあうん。建国帝の血はたぶん強いから……ステータス二倍とかできますよきっと。
真・聖王陣も間違いなく強いですよ。
死にかけのゴブリンをステータス倍にして、エクスカリバー持たせるみたいな。
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