第14話:異端審問は次から次へと秘密が暴露されます

「申し訳ございません、ルシェル様。今後プリムは精進して、戦闘メイド修行をしてまいります。これからはホワイトブリムとお呼びくださいませ」


 なぜかプリム、今日から丸い伊達メガネをつけ、長い黒髪を後ろで二本の三つ編みに束ねています。

 メイド服の中の太腿には沢山の武器を仕込んだそうです。


 どうも色々なデータを伝達しすぎたために、凝った衣装になったようです。


 今度、ケブラー繊維の日傘にショットガンを仕込んだものや、鉄板入り革製トランクの中にマシンガンとグレネードランチャーを入れたものを用意しましょう。


 きっと喜ぶと思います。




「ルシェル様。護送の聖堂騎士の方がお見えです」


 プリム改め、ホワイトブリム、長いからブリムでいいわね。

 ブリムが私を収監しに来たカンタベリア国教会の聖堂騎士の到来を告げました。


 ついにこの時が来ました。


 異端審問です。


 伯爵さまへの査問会は一応の嫌疑が晴れたために、今度はベリヤーノを始めとする財務省内の調査と改革が始まるとの事。


 ですが、今度は一部の修道院から「ルシェルは異端の神を信仰している」との告発がなされました。


 仕方ありません。

 本当の事ですから。


 でもこのままでは、密かに世界征服を企む秘密結社が作れません。

 ここは全面対決で正面突破いたしましょう。

 嫌疑は完全に晴らさないと、今後の影からの世界征服活動に支障が出てしまいます。


「参りましょう。何もやましい事はしておりませんので、堂々と大聖堂へ行きましょう」


 やましいこといっぱいですが、表情筋を完全にコントロールしてルシェル@鉄面皮で通します。



 ◇ ◇ ◇ ◇



 大聖堂の神の御座の前で宣誓をしたのち、司教様からの諮問が始まりました。


「アーシモフ修道院所属、修道女ルシェル。そなたに問う。

 アーシモフ修道院は廃院となったはず。なぜそなたが取り仕切っているのだ?」


 そうですよね。

 廃院に勝手に住み込んでしまいましたので。


「はい。八年前、神のお導きで、行き倒れ寸前であったわたくしに一杯の粥を差し出してくださった慈悲深きドイル神父様(アイザックさま)。

 神父様がお亡くなりの時、修道院を預けるとおっしゃられました。

 ですが、その引継ぎというものが必要だとはつゆ知らず」


 ちょっと白々しいですね。

 これだけ知識量をひけらかせてしまいましたのに、そんな基本的な事を知らないなどありえません。


 でもそれを覆すようなことはできないはず。証人がいない場合は既成事実がものを言います。


 この八年間、アーシモフの地では善行を重ねてまいりました。

 それを否定できるはずもありません。


「そうか。だが、その修道院には秘密が隠されていると聞く。

 土地の者の証言が取れた。

 修道院からは夜な夜な、笑い声と不気味な光が見えると」


 あ~。

 アイザックさまのお声ですね。

 VR映像をご堪能の際の笑い声。

 またアイザックさまの出現の際には、どうしてもホログラムが必要。


 ですが、どなたがそのようなことを告発されたのでしょう?

 村の皆様は、皆良い人で、わたくしに感謝こそすれ、あしざまに言う方はいらっしゃらないかと。


「証人をこれへ」


 数名のお百姓様と、行商人様が大聖堂に入ってきました。


 あれはウェンリーお爺様。

 いぼ痔が痛くて、毎週塗り薬を差し上げている方。

 あの薬がないと、まともに生活できないとか。


 あちらはマリアン様。

 お子様に恵まれなかったために、排卵誘発剤を処方して、今年見事に六つ子を授かりました。


 その向こうはハンセン様。

 ラリアット病という腕が曲がらなくなる難病を抱えている方。

 肘関節をイゴールがマイクロマシンでの手術に成功して、すっかり完治。とっても感謝されました。


 行商人様は温厚で親切な方なので、たまにお薬を下ろしております。


「ウェンリーとやら。この修道女はいぼ痔の薬と称して、辛子入りの軟膏を塗ろうとしたとは誠か? なにやら黒イモリの頭が入っていたとも聞く。

 まるで魔女の薬のようだと」


「へ、へい。おかげで椅子に座れない位、腫れあがりました」


 こちらを見るウェンリー様の目が「ごめんな」と言っております。

 完全にうその証言をさせられていますね。


「洗濯女マリアン。そなたはこの修道女の施術で世にも珍しい六つ子を授かったという。それにより呪われているようにいそがしいと聞く」


「は、はい。一日中家事育児に追われており、死にそうでございます」


 それは分かります。

 仕事をしながら六つ子を育てるとか、なんという拷問でしょう?


「拳闘士ハンセン。そなたは修道院に不気味な人形があり、それが自分の腕を直したというが、誠か?」


「は、はい。無口な小僧の人形でした。それの目が光り俺の腕をつかんで1時間ほど放してもらえず。

 力自慢の俺にも振りほどけませんでした」


 イゴールは百万馬力の鉄腕な可愛いロボットですから。


「最後に行商人、ショーンワル。

 そなたは修道女ルシェルの作った薬を各所におろしていたと聞く。

 その薬にて、かの黒死病が流行したというのだな?」


「はい。そこの修道女の薬を販売した地方から黒死病が流行いたしました」


 何をおっしゃいます。

 あなたには大した薬を販売していたわけではございません。

 ニキビの薬とか、洗眼薬とか、水虫の薬とか、ワセリンとかの外用薬。


 あ。

 それを飲ませました?

 その失敗をわたくしのせいにしていると?


「そうか。では先のゴットホープ卿の神なる薬にて収まった黒死病も、この女の仕業。いや、もしかしたらゴットホープ卿もマッチポンプをしていた恐れもある」


 なんという曲解でしょう!


 難癖をつけたい方はどんなふうにでも曲解して、弁明を聞きません。

 さてこれは困りました。


 わたくしが珍しく二十八秒ほどの超長期間にわたる高速演算をしていると、大聖堂の入り口の方で、ざわめきが起きています。


「お義姉さま。お助けに上がりましてよ!

 先の御恩、お返しいたしますわ!」


 なんと。

 エリーザ様があの薄い本を持って突進してまいります。


「司教様方。このお方を何方どなたと心得ます?

 聖女ルシェルとは仮の名、その本名はチクニー=チク……もごもご」


 素早く口を押えて黙らせます。


「ハアハア、この『イケメン神父。昇天ハレルヤ!』という聖書。ここにいる司教様にも見覚えのある方もいるはずですわ!

 聖書の前にひざまずきなさい!!」


 その次に参られたのは宰相のペンドラゴン侯爵です。


「アルウェン司教殿。そなたの座右の書である『無人島で九百九十九人の美女とパコパコ三昧』の著者、ムネスキー=プリンプリン殿はここにいる……もごもご」


 これもぎりぎり口をふさぎました。


「皆さま方、何を騒いでいます? このムーサ連合王国の貴族らしくない」


 じょ、女王陛下?


 皆様がササッとひざまずきます。


「さて。これは異端審問でしょうか?

 国教会の教主として、この重大な審問。拝見させていただきます」


 温厚な笑顔の中に、凄く高性能なSSDが入っているような怜悧な方です。


 ここは最大の難関となりそうです。

 心してかかりましょう。

 秘密結社アイザック結成のために!




 ◇ ◇ ◇ ◇


 次回、最終話。

 様々な秘密が開かされる!


 乞うご期待!!

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