特定有人国境離島地域に暮らす2023

西野ゆう

第1話 恐怖と闘う日々:安息の地を求めて

「俺は……怖いんだ。俺のこの力で、大切な人を傷つけてしまうのが」

 ファンタジーなセリフとしてはこんな表現でしょうか。

 ちなみに私は自分で自分に人と違う力、能力があるとは思っていません。あたりまえか。


 逆に欠損していると思うのです。いや、思うではなく、事実そうですね。欠けています。主にこらえる力が。


 よく「キレる」って言うでしょう?

 強烈な怒りや衝動に、普段は起こさない行動を起こす。主に暴力的な方向で。

 それは若い人には誰しもあること。最近では「キレるオジサン」なんて言葉も耳にすること多数ですが。基本的に若者、特に思春期周辺の年代に多い行動です。


 で、私のように病んでしまった、或いは先天的に障害を持って生まれてしまった人は「キレる」ことなく、ごく平静な状態で、一般的な規範から外れた行動を躊躇なく起こすことがあります。

「平静な状態」と書きましたが、そこには僅かなストレスが存在しています。普通の人には些細なことも、微量のストレスも躱すことができず、行動に出てしまう。

 私の場合、それを自覚しています。ですからこのように文章として発出できるわけです。


 自覚していれば、できることがあります。予防です。

 ひとを傷つけないための予防。

 一番簡単なのは、人と関わらないことです。

 ストレスの元から絶つ方法ですね。ただ、この方法には大きな欠点があります。

 ひとりで生きていく術を身につけなければならない、ということ。

 はっきり言って、それは不可能です。

 路上生活でも構わない、というなら別かもしれませんけど。


 簡単ではないですが一番現実的な方法は、自分で努力することと、人の助けを得ることです。

 自分にできることを探す。自分の助けになってくれる人・方法を探す。


 最初に私が見つけた方法は、「小説家になる」ということでした。

 職歴の汚れしかない私の履歴書では、普通に就労することが難しくなっています。よく「選り好みしなければ仕事はいくらでもある」と言いますが、そもそも私のように障害(精神二級)がある人間に「選り好みしない」職探しなんてできません。かなり厳選します。

 で、当然なかなか就労先が見つからない中、「文章だったら一人で書ける。普通に日本語で書き連ねるだけなら」と、就労先として小説家を選びました。


 結果、小説家になるも、収入として充分ではありません。デビューしたはいいけど、次が続かないので当然ですね。

 それでも、しばらくは小説家として収入が増えるよう努力していました。

 その努力に時間が割けていたのは、私がデビュー当時兼業主夫だったからに他なりません。


 ですが、愛想尽かされる日がやってきました。

 独り身に逆戻りしたのです。困りましたね。

 仕事を探さねば。

 前述のとおり一般の仕事は難しいので、当然配慮がしてもらえるであろう障害者雇用枠での就労を目指します。ところが、というか、考えてみれば当然なのですが、「障害者枠」は、ほぼ全ての企業が「身体障害者」を雇用したがるのです。

 精神に障害のあるヤツなんて、リスクが大きいですからね。扱いも難しいし、トラブルも起こしそう。最悪、2010年6月22日に発生したマツダ本社工場連続殺傷事件みたいなことが起こらないとも限らない。


 もちろん私自身になんらかの専門的スキルがあれば、或いは単純に企業から見て欲しい人材だと思わせる魅力と常識があれば、就労のチャンスもあったでしょう。

 ですが、私には何もない。残念。

 しかも、本腰を入れて職を探し始めた時に大挙してやってきた新型コロナウイルス。


 仕事がないと時間だけはあるのですよね。

 仕事も探しつつ、行政の力も借りつつ、その行政よりもより自分を助けてくれる人を探しました。且つ、自分の力も必要としてくれる人を。

 この当時、私は広島市内に住んでいましたが、日本中の中から探し出した人を頼って奈良に転居。

 そして、奈良、または電車で二十分ほどの大阪で仕事を探しました。


 それでもやはり仕事探しは難航。

 しかも、奈良は広島と比べて福祉サービスの質が低い。生活に関する全てのことを一括してサポート、支援、提案してくれる仕組みのある広島とは大違い。

 それでも慣れるものですね。自然と。

 色々試行錯誤しましたが、結局ハローワークの人に提案された「とりあえず福祉サービスを使って、就労継続支援A型の事業所で探してみては?」という道に乗ってみることにしたのです。

 人を傷つけるかもしれない恐怖と闘いながら。


★次回 「福祉の文字を借りた悪徳事業者」 奈良で仕事に就いたはいいものの……

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