第55話 怠惰卿、出陣式を執り行う。

 夏の終わりも近付いたヴェルヴェルク領。

 その領主の館で、宴席が設けられた。

 主賓の座に座るは、領主、

 暖炉の前に席に三人の可憐な獣人を侍らせ、その頭を撫で微笑み。

 軽装の少年冒険者を傍らに立たせ。

 その背に漆黒の邪神を乗せる者。

 金の長い髪は覇者の如く、青い瞳に恐れはない。

 戦地に赴くというのに、欠片も同様を見せぬ……美少年。


「あっ一生こうしてたい」

「領主さま???」


 ケモミミメイドズ撫でてたら戦場行きたくなくなってきました。

 俺です。

 ニュート・ホルン・マクスウェルです。

 いやさ。


「「「むぁー!」」」


 ミニスカ+ロングスカート+チャイナメイド。


「かわいい子たちを撫でながら戦争考えるとか、馬鹿馬鹿しくならない?」

「出陣式を開いたのはあるじさまでは???」

「そうだけどさぁ……」

「はっはっは! ニュート様でも怖気つく事があるんですなぁ!」


 今夜開いたのは、出陣式である。

 といっても、礼儀作法だとか儀式だとかは一切勉強してないので真似事だ。

 集めたのはネズミ長老とか盗賊七人衆とか元奴隷商とか。

 とにかくヴェルヴェルク領のえらいやつ。

 首脳陣的なふいんきの奴等。

 理由としては単純で。


「まぁ死ぬやもしれんし」

「わぁ」

「「「死……?」」」

「やべっ」


 ケモミミメイドズが固まってしまった。

 ぷるぷる震えて泣くなよ可愛いけど申し訳ないだろう??


「可愛いからいっか」

「よくない」


 のじゃロリの突っ込みにこほんと咳払いしたのは、ネズミ長老。


「……戦にはならんでしょう。恐らくは」

「おそらく」

「あん王女さまの言動は、ちと現実みに欠け……」

「一銭も儲からない戦争になりますからねぇ」


 奴隷商やらネズミ長老やらが分かった風な感じに言う。

 まぁ、総合的に社会経験がある連中からすれば実際にそうなんだろう。

 が。


「姉さんには邪神ついてるし、多分やるよ」

「ニュート様、軽くおっしゃいやすね……!」


 プッツン来てるしほぼ確実にやる。

 まぁ対岸の火事よろしく無視しても良いっちゃ良いんだが、バケツ頭も連れてかれちゃったからな。


「最優先事項は、バケツ頭とちゃんと話す事」


 戦争に介入する気は、あんまりない。

 ただ、それでバケツ頭が危険な目に遭うなら、ギザザ姉さんを殴ってでも止めて、サルウェイタンごと俺が貰う。

 どうやるかは、まぁ王族なのでなんかします。

 なんとかなるやろ。

 なるといいなぁ。

 高度な柔軟性を維持しつつ臨機応変に対処とか言っとけばいいや。


「ぞっこんじゃのうあるじさま」

「一応うちの騎士団長よ? あれ?」

「「「あれよばわり」」」


 別れの挨拶もしない騎士団長とかアレ呼ばわりで充分です。

 ケモミミメイドズが声合わせて喋ると声かわいいんだよね。キャラソンCD出してくんないかな。この世界CDあんのかな。流石にねぇか。


「……護衛は連れてく。心配はいらん」

「護衛? 騎士団長殿はいらっしゃらないのでは……」

「お前」

「へ」


 俺が誰を指さしたか分かる奴は居たんだろうか。

 指されてる本人が分かってないから厳しいかもしれん。


「駆け出し女装冒険者、お前護衛しろ。馬車使える?」

「へ……ぼ、ボクですかぁ!?」


 他に居ねぇだろ。

 そう。

 ここに集めたのはヴェルヴェルク領の首脳陣。

 ケモミミメイドズはまぁ首脳陣どころか国宝なので居ても違和感はないが。

 単なる、一介の冒険者が一人だけ混ざっていた。

 褐色肌が瑞々しい美少年。

 灰色の髪。

 へそ出しスカート冒険者スタイル(女装)。

 名前は知らん。こいつなど駆け出し女装冒険者で充分だ。

 

「盗賊七人衆はギルド忙しい。ネズミ長老は学校開いてる。ヒマで戦えてついでに俺が顔覚えてる奴is残り一人。おんりーゆー」

「わぁ」

「雑じゃのう、あるじさま」


 良いんだよ。今回は全部雑で行く。

 俺が働いてる時点で負けているのだ。

 これ以上働きたくない。ギリギリを攻めるのも正直好みじゃないが仕方がない。

 バケツ頭が居ないと、俺は無限に働く事になっちまいそうだからな。


「護衛が一人では不安ではないかの? あるじさま」

「どうせお前はついてくるだろ、邪神。

 それに駆け出し女装冒険者の野郎はお前のダンジョン最上階まで来てんだ、弱いって事は……あるかもしれんが、俺よりは強いだろ」


 魔物相手は、俺ではどうにもならん。

 人間相手なら首トン他七十九種類程度の暗殺術でどうにでもなるが、南方サルウェイタンにはダンジョンがある。

 そこ由来のモンスターでイベントが発生したら対処ができねぇ。


「信頼してる」

「~~~~! わ、分かりました領主さま! ボクが全身全霊をも」

「その呼び方変えとけ。ヴェルヴェルク領出たら俺領主じゃねぇし」

「で、では怠惰卿と!」

「……」


 中二病っぽいネーミングでどうにもむずかゆい。

 が。

 正式にアルフレオ兄様から貰った称号だし、まぁ、妥当か。


「ヨシ」


 万事ヨシ。

 ……働きたくないという気持ちは一旦置いておく。

 こんなものは努力にも入らん。

 俺は、テキトーに護衛させて、テキトーに旅行に行って、テキトーに話して……必要だったらテキトーになんかするだけだ。

 努力の内には入らない、気がする。


「むずがゆそうな顔じゃのう、あるじさま」


 のじゃロリうるさい。


「……とにかく! 俺の出陣を祝え領民どもぉお!!!」

「「「わー!!」」」


 ケモミミメイドズが可愛いので万事OKです。

 とりあえず無限にモフって寝よう。

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