第40話 怠惰卿、謙遜なさる。
宮殿。
「働け」
「アルフレオ兄様。せめて外見を描写する隙を下さい」
詰められてる俺です。
ニュート・ホルン・マクスウェルです。
アルフレオ兄様の説明はあの一言で充分だと思うんだけど、ザルバート兄や俺だけをクソイケメンとして紹介してもなんなのでちゃんと話す。
俺と同じさらっさらのストレート金髪ロングヘアー。
しかし俺とは違ってお肌はあんまり良くない。
真っ白な肌は不健康なくらい青白く。
目元と眉間には常に皺。
髭はなくてキリっとした顔つき。
それと四角い黒ぶちの眼鏡。この世界じゃ高級品。
ここまではひょろがりっぽいのだが。
パパにもう少しで追いつきそうな、2メートル近いガチムチ。
不気味な要素の寄せ集めなのに、ぱっとその全体像を見てみるとかっけーというかイケメンというかカリスマというか、そんな状態になる謎のおっさん。
「事は一刻を争うが、かといって貴様のように無学な弟に簡単に任せる訳にも」
「アルフレオ兄様」
「なにも貴様にダンジョンは任せられないという訳ではない。怠惰卿の座も恐らくは容易く寝ころぶ程度には順応するだろう、だがな」
「へいへい」
「お前は勉学をサボっていただけで吸収力は高い。今からでも魔法学園に通うというのなら次期国王の名で許可を出してやっても良いと本気で考えている。そうするだけでお前の能力は飛躍的に向上し民を豊かにできるだろう」
「にーいーさーまー?」
「学園が面倒だという意見は認める。その場合は俺が優秀な家庭教師を見繕ってやろう。金ならある。俺は次期国王だぞ。一度言ってみたかった。とりあえずしっかりと領主としての務めたる学習と鍛練を重ねるならば……」
駄目だ。
眼鏡ロン毛マッチョ、話聞かねぇ。
「む」
宮殿の巨大な広間で俺がorz形態になっていると、話が止んだ。
救いの神か?
「ギュスターブ・バケルト氏のご子息か。これは失礼した。このような不出来な弟の世話を任せてすまない。父に代わって謝罪と御礼を。助かっている」
「えっこっちですか!?」
「わぁ」
バケツ頭は俺の救いの神かぁ。
うん。まぁ、納得はする。
「は、はぁ。だ、第一王子……み、みみみ身に余る光栄ををを」
駄目だ壊れた。
「直接の主人ではない俺から褒賞を贈る事はできんが、なに、時間はある。これより五時間は弟に説教をくれてやる予定なので……」
「にいさまぁ!?」
まずいぞ。
五時間説教とか、またギャグでオーバーな数字を言ってると思うじゃん。
ガチでやる。
それが俺のアルフレオ兄様である。
「兄上、そのような時間は……!」
「ザルバート。お前が甘やかすからならんのだ。甘やかしたいほど愛らしい弟だというのは認めるが、俺にとってはお前もそうだ。だが俺は厳しくした。できたかな? できてなかった可能性も無きにしも非ず故その時は深く謝罪するが俺が教えた風の魔法は役に立っているだろう立っていると良いなと思う」
「ぐはっ!」
俺の台詞に割り込めるザルバート兄でも兄様の長台詞には太刀打ちできない。
アルフレオ兄様の台詞。
嫌味なほど、相手の事を考えているのである。
実際は長すぎて誰も聞かないし読まない事が多いが。
割り込んだり止めた方が精神ダメージを受ける。
これが王の話術!
……なのか?
「総括」
困惑する俺達を前にカンと剣を突き立てるアルフレオ兄様。
装飾が少ないながらも良い出来である事が分かる刃が、大理石の床に輝かしい。
「働け。働くために勉強しろ。それをこの場で約束してくれたならば。
怠惰卿の座を、正式に、国王の名で、ニュートにやる」
長話をした自覚があったらしい。
最後にまとめてくれるの好きなんだよね。
ただ。
「返事は?」
ザルバート兄が頭を抱えてるって事と、ここまでの俺を知ってる人なら分かってくれると思うんだが……。
「働いたら負けだと思ってる」
うん。
……二回目の人生で勉強なんかしたくねぇんだよこっちはぁ!!!
アルフレオ兄様の眉間の皺が濃くなっちゃった♡
「……ニュート。できるだけ分かりやすく話す。分かりにくかったら言え」
「あい」
「貴様が契約した“怠惰の邪神”だが……」
また長話の気配したし寝ようかな。
「多分、お前が好きだった女かなにかの形をしているのだろう」
寝れねぇ話題が来たな。
思わず振り返る。俺の後ろでくすくす笑ってる黒和服のじゃロリだ。
「魔力供給手段は交合……ではないな、接吻か。可愛い弟らしい」
「兄様。なに? 監視してた?」
「推測できる事だ。一つ一つ根拠を語れば貴様は寝るので結論から言う」
全部説明しろって言いたくなるけど否定できないので黙る。
「勉強しなければ、貴様はそれにとり殺される。貪られるなどの生物的な形ならまだ良いが……魂の領域に関する事だ。難しいので省く」
既に難しい話なんだけどな!
「ニュート。俺は、弟に死んでほしくない。争いは好きだが年中やれば飽きる。勉学し、労働し、魔法を学び、身に着ける。そうしなければお前は死ぬ」
んーむ。
どうしよっかな、これ。
言ってる事は優しさに溢れてるんだけどよ。
これ拒否する奴の方がクソだと思うんだよ。実際。俺もそう思う。
でもさ。
「……こうなったら」
「直接言うな。凹む。思考時間で判断できた。許せザルバート」
「あ、兄上!?」
ぜってぇ努力しねぇ、とか言おうとしたら遮られた。
「怠惰卿の座は与えられん」
兄様、悲しそうに首を振っておられる。
うん。ザルバート兄。
「横の民の表情も、自分の力すらも見えんようでは、な」
そんな悲しい目で見るなよ。
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