師走  満月 友

みやびと、いわおです」


 私は、寡黙な青年、渡辺綱わたなべのつなさんに、一匹ずつ動物たちを紹介する。


「ナマケモノと、カピバラですね。青龍せいりゅうと、……玄武げんぶか」

 綱さんは、目を細めてゆっくりとうなずく。


「それからこちらが、寒冷地ゾーンです。ましろと、……ペン太です」

「ペン太」

 復唱され、こらえきれなくなり私は噴き出す。


「なぜに突然、ペンギンだけそんな安易な名を」


 綱さんは、言葉数が少なく、その言葉には重みがある。


「どうしても、思いつかなかったみたいです」

 まだ収まらない笑いに腹筋を震わせながら、ようやっと私は答える。




 私とクサブキさんの暮らす結界に、綱さんを筆頭とする4人の追手、頼光四天王が来襲し、私たちが和解した夜から、1か月ほどが経っていた。

 

 綱さんは、群を抜いた剣術の実力を誇っているが、空を飛んだり、妖力を見切ったりといった、特殊な能力はないらしい。この結界に来るのも、小柄な貞光さだみつさんや弓使いの卜部うらべさんは気軽に飛んでくるが、彼は、毎回地道に登山道を登り、石門を通ってやって来る。


 それでも、綱さんは度々、この結界を訪れてくれる。クサブキさんが人であった頃、彼らは、おそらくとても仲の良い友人だったのだろう。

 縁側に、黙って並んで座り、月を見上げながら杯を傾けている二人の背中を眺め、私はしみじみと温かい気持ちになる。


「あまね。そんなところにいないで、こちらにおいで。寒月は、いよ」

 

 クサブキさんが振り向いて手招きする。私は、クサブキさんの隣に引き寄せられ、腰に手を回される。彼の手から、盃でお酒を飲まされそうになるが、さすがに人前では、恥ずかしい。


 綱さんは、少しまぶしそうに微笑んで、私たちを眺めている。


くさぶきが、そこまで堂々と女人にょにんを可愛がるとはな。俺は、口下手だから、うらやましいよ」

 ぽつりと、綱さんのつぶやき。


「歌でも贈ってみたら、どうなんだ。お前もたしなみとして、かつてはこなしていただろう」

 クサブキさんの言葉。

 風流だけど、現代女性には、なかなか難易度の高い愛情表現だ。私は口には出さずに思う。


「ここに薫子がいれば、そうだな。


 つくばねの みねよりおつる みなのがわ こいぞつもりて ふちとなりぬる 」


 綱さんの、静かな声。

 私は、二人の末永い幸せを、12月の満月に祈る。

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