第12話 静止した人間

水戸の丸井って知ってる?16年前の話だけど、ある日、パッと入ったら、丸井と水戸エクセル、マグリットの絵みたいに人が上空で静止していて。それから嘘みたいな話だけど、丸井は閉店、エクセルに当時入っていたテナントほぼ撤退して、今はない。たぶん地上げで土地を失った人の怨念かな。


2020年11月11日に投稿


 140文字に書ききれなかった怪談を、書く。


 日本の、関東地方、茨城県、水戸市には、かつて、丸井という百貨店があった。


 2004年。

 平成16年。


 駅からほど近く、当時、駅に1番近い進学校に通っていた私にとって、学校帰りに丸井へ寄ることは、楽しみのひとつであった。


 進学校に通ううちに、精神のバランスを崩す生徒はいる。

 なぜかというと、いじめが、ひどいからだ。高学歴かつ、知識のある彼らのいじめは陰険で、私は、徐々に精神の安定を崩して行った。


 性的な嫌がらせを受けたこともあれば、面と向かって悪口を聞いたことも、後輩が私のことを笑ってきたり、個人情報を根掘り葉掘り聞いてきたり、と、いじめの種類は、今まで受けたいじめの中でもっともこたえるものばかりであった。


 当然、死を望むようになる。


 死を望むようになれば、霊界との距離は近くなり、心霊体験も増える。


 そんなある日。


 受験により、精神が極限まで追い詰められた私は、幻を見た。


 百貨店の吹き抜け、空中に、マルグリットの絵を思わせる、人が静止しているのである。


 まるで、空中に、縫い止められたかのように。


 頭がおかしくなったと思ったが、どう見ても現実だし、おそらくこれは、心霊体験ではなく、幻覚でもない、事実として、横たわっていた。


 それは、水戸駅近くの商業施設、エクセルでも見かけた。


 これは、空襲による死者ではない。

 いったい、誰だ。


 それから何年かして、百貨店は閉店し、エクセルにあった店は、ほぼ、別の店に置き換わった。


 答え合わせが済んだのは、まず、丸井が閉店した時に流れた、地鎮祭の様子だ。


 丸井を建てる前の地鎮祭、そこには、負の力が見えた。


 おそらく、バブル期における、地上げ、無理な土地買収、無駄な開発により、大衆の不満は高まっており、丸井でさえ、それは例外ではなかった、ということだ。


 先祖代々の商売、先祖代々の土地、明け渡したくなかったという思い、土地を開け渡した悔しさ、そう言った、負の側面が、バブル期にはあった。


 華やかに、富を謳歌していたのは、一部の人間だけ。


 今でも、日本のどこかで、バブルの犠牲になった人たちの魂は、生き霊として、さまよっているのかもしれない。


 第12話、終わり。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る