最後の家族は、アパートに住んでいて、当日留守にしていたはやしという家族だった。林克行かつゆき(当時四十歳)林喜美子きみこ(当時三十六歳)行斗ゆきと(当時八歳)の三人家族。十年前は、翌日になってから警察が訪問した。喜美子が対応し、「留守にしていた時間は家族ででかけていた」と話し、帰宅してからも不審者などは見ておらず、「事件があったことも知らなかった」と話した。


 そのすぐあとにアパートは取り壊され、今は八王子に住んでいるようだ。鈴木の運転で向かう。


「このあたりだな」


 地図を見ながら岩山田が言う。近くのコインパーキングに車を停めて、住宅街を歩いて林の家を探す。アパートの老朽化に伴う取り壊しと同時に、空き家になっていた喜美子の実家に引っ越してきたらしい。


「ここですね」


 築年数は古そうだが、きれいな外観の家だった。庭もよく手入れがされており、花々が色とりどりに咲いている。花壇というより、庭全体に足の踏み場がないほど花が咲いていた。庭いじりが趣味なのかもしれない。


 チャイムを鳴らすが反応がない。


「留守ですかね?」

「少し待ってみるか? 八王子まで来たし」


 玄関の前で二人して腕組みをし、少し傾き始めたじりじりとした西日に耐えていると、中年の女性と若い男性が歩いて来た。

 女性は怪訝な表情で近寄ってくる。


「あの、うちに何か御用ですか?」


 林喜美子か。少しよれた灰色のTシャツ。脇に汗染みが浮いている。髪を後ろで一つに結っており、くたびれた印象だ。スーツの男二人が腕組みして家の前にいたら恐怖だろうな、と鈴木は少し笑いそうになった。しかし、そんな思いはあっという間に消え去ることになる。


「こういうものです」


 岩山田が手帳を見せるやいなや、喜美子は大きな声を出した。


「見つかったんですか! 主人は、どこにいるんですか!」


 明らかに興奮している。


「どこにいる、とはどういう意味ですか?」


 岩山田が静かに聞いた。


「あ、違うんですか? はあ、すいません。そうですよね、こんな早いわけがない」

「何のことでしょう?」

「実は今、主人の捜索願を警察に出してきたところなんです」


「ええ!」


 岩山田と鈴木は顔を見合わせた。



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