第11話

 剣神は何も入ってない鞘へ右手をのばす。

「お前に授ける剣はこれだ」

 鞘には確かに剣は無かったはずなのに、いつの間にか剣神の手には剣が握られていた。

「受け取れ」

 差し出された剣を、シーヤは慌てて折れた剣を鞘におさめると受け取る。

 使っていた剣より重い。幅も長さも同じぐらいなので、使われている金属が違うのかもしれない。鈍く黒ずんで耀きのない地味な剣は、まるでシーヤのために作られたかのように手に馴染んだ。

「これを僕に?」

「ああ。この剣は……なんだったか? オイ、言ってくれ」

 その言葉にため息をついたゼッジが口を開く。

「まったく……その剣は【折れず】とあるドワーフが鍛えた剣」

「ドワーフがっ!」

 シーヤが驚くのも無理はない。ドワーフは神話時代に伝説の武具を鍛えた種族だ。それらの武具のいくつかは国宝として残っている。この剣が本物なら、とんでもない。

「ドワーフにも腕の優劣があった。そのドワーフは情熱と意欲はあれど、才能は無くどれだけ剣を鍛えても満足なものはできなかった。他のドワーフの武具に憧れ、自分の腕に絶望し、それでも鎚を振るい続け鍛えたのがこの剣。他のドワーフの剣と比べればなまくら同然だが【折れず】はその名の通り、どんな武具と打ち合おうとも、折れず曲がらず刃こぼれひとつしない。例え神殺しの武具であろうとも」

 いつの間にか観客は声ひとつなく、ゼッジの語る言葉を聞いていた。

「絶対に折れない剣……」

「お前の剣は、護剣だ。守るべきものを守るための剣。それにはこの剣がふさわしい」

「あなたは、本当に剣神、さま、なんですか?」

「他に誰に見えるよ?」

 剣神は笑い、ゼッジに視線を向けた。

「裁定はなされた」

 その言葉とともに、剣神の体が光輝いた。眩しさにシーヤは腕で目を隠す。

「じゃあな。もし誓いを忘れて剣から見放されたら、剣を返してもらうぞ。がんばれよ!」

 光が消えると、そこには剣神の姿は無く、ゼッジもいなくなっていた。

 シーヤは周囲を見回すが見つけることはできない。夢だったのかと思うが、しかし手には【折れず】の剣があり、その重さが現実だと教えてくれた。

 

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