第6話 幼馴染みの手作り弁当



 月曜日の昼休み。


「よ、佐藤。今日は新条さんと一緒じゃないのか?」


 いつものように栄養食とゼリー飲料の入った袋を取り出していたらクラスの上位カーストである武田くんから話しかけられた。

 武田くんはサッカー部のエースで成績も良くイケメンと名高い。

 それだけではなく、彼は友達が居ない俺に対してちょくちょく話かけてくれるいい奴だ。


「ああ、多分生徒会か何かでさっき教室を出て行った」


 そう。今日は珍しく茜が居ない昼休みで誰かと一緒に食べれたらなと考えていたのだ。


 まぁ、最悪ぼっち飯を覚悟しているのだが。


「お、なら今日は俺たちと食べないか?」 


「……え」


 突然の願ってもないお誘いに言葉を詰まらせてしまった。


「……いいのか?」


 つい、そんなことを言ってしまう。話しかけて来てくれると言っても挨拶程度なものだったし食事に誘われるようなことした覚えもなかったから。

 


「もちろん。実は佐藤のこと結構気になってたんだよ。なんか中等部の恩人に似ててさ」


「………………」


「それに佐藤とはゆっくりしゃべってみたいと思ってたんだよ。みんなも是非って言ってるし、よかったら」


 武田くんは自身の集団に視線を送りながら言った。それに応えるように男子1人と女子3人がこちらに向けて手を振っている。

 全員が容姿が整っており、おしゃれな制服の着こなしでキラキラしたオーラを放っていた。


 ま、まさか……成れるのか? 俺も陽キャてやつに!


「じゃあ、せっかくだしー」


 突然、俺の袖を後ろからくいくいと誰かが引っ張った。


 いや、誰かっていうか、こんなことするの1人しかいないんだけど。

 にしてもだ。おいおいおい……まじか。今か?


 嫌な予感と共に振り返ると茜が恥ずかしそうに俺を見つめていた。


 思わず身構える。


 何だ? 一体何のようだ?

 

「ねぇ、いつき。ちょっといい?」


「……どうした新条? 何か用事か?」


 どこか落ち着かないその様子……嫌な予感がする。


「えっと、その……ここじゃ何だし、ちょっと空き教室に行かない?」


「「!?」」


 武田くんが驚きながら無言でこちらを見る。

 この流れ……かなりやばい。絶対に碌な事が起きない。

 いや、落ち着け、希望を捨てるな。 


「……要件があるならここで話してくれ」


「う……い、いいじゃない……ここじゃなくても」


 あかねは引かない様子だ。この様子じゃあ言えないというより言いたくない感じだな。



「ここじゃなくてもって……逆に聞くけどここじゃだめな理由でもあるなのか? そこは説明してくれないと納得できないぞ」



 悪いがここははっきりと言わせてもらう。せっかくの友達ができるチャンスなんだ。クラスでの立場が確立するといっても過言ではないこの機会は絶対に逃したくない。


 よほどの要件じゃない限り、俺は武田くん達とー


「うぅ……だから……ここじゃ恥ずかしい事をしたいから2人っきりになれるところに行きたいって言ってるの!!」

 

 その一言で空気が凍りつき、クラス中の視線が一気に集まった。


「え……ここじゃできない恥ずかしいこと?」


「おいおいまじかよ……ナニするんだよ」


「あの2人……やっぱり付き合ってるのかな?」



 そして始まるひそひそ話。

 ああ、何だこれは……たまげたなぁ。



「あー悪い、佐藤……お邪魔だったみたいだな。2人で楽しんできてくれ」


 なんかあらぬ誤解を生んだ上に気を使われている!?

 ちょっと待ってくれ!! 弁解の余地をくれ! いやください!!

 そんな心の叫びは届かず武田くんは俺の元から離れて行った。

 

 すまん、泣いていいか?


 放心状態の俺は茜に手を引かれながら空き教室に来た。

 2人きりの教室……俺は一体何をされるんだろう?

 


「……ん」



 テーブルの上に置かれたのは弁当箱だった。



「こ、この前のお礼……いつきには世話になったから」

 

 照れ臭そうに顔を逸らす。両手を後ろに隠し、何やらもじもじと落ち着きがない。

 ……それにこの弁当って


 

「え、まさか手作りか?」


「そ、そうよ! て、手作りよ!」


「……ま、まじっすか」



 茜の手作り弁当……? 

 思わず口元を手で押さえた。あまりの衝撃で手が震えている。い、一体どんなおかずが入っているんだ?


 やべぇ、めちゃくちゃ気になる!!


「そ、そんなに驚かなくても良くない?」


「お、おう……」


 心を落ち着かせ、弁当の蓋を開けるとおかずたちが姿を表した。

 ちょっと焦げた唐揚げと卵焼き、あ、タコさんウィンナーがある!! だけど足が千切れていた。まともに見えるのは茹でたブロッコリーと冷凍食品のみ。


 誰の目から見ても『あぁ……』っとなってしまうようなそんな弁当だった。



「う……」



 本人も自覚していたのかもう一つの弁当袋を取り出す。 



「……や、やっぱりいいわ! これは私が食べるからあんたはお姉ちゃんが作ったこの弁当をー」


「いただきます」



 手を合わせて、お箸を持ち、茜が作ってくれた弁当をいただく。

 そんな俺を茜は見て大きく目を見張った。 

 

 ん、まずはこの焦げた唐揚げをいただくか。



「……無理しなくていいのに」


「無理なんかしてない。朝早く起きて作ってくれたんだろう? 弁当を作るのにはそれなりの労力がかかる。お礼とはいえ嬉しいよ。ありがとな」


 冷凍食品が入っているのは多分作った他のおかずが食えないレベルで失敗してしまったからだろう。

 確かに茜が作った弁当はお世辞にも見栄えがいいとはとは言えない。

 だけど、朝早くから頑張ってこの弁当を作ってくれた事はわかる。そんな弁当を要らないとどうして言えようか。


「お、新条、この唐揚げうまいぞ。これ昨日の晩から仕込みしてただろ?」


 なぜか噛むとたまにガリッとした感触がするが。

 

「!! う、うん! そう! 昨日から仕込みして味もちゃんと染みて美味しくできたのよ!」


「あーそうなの。はいはい」


「ちょっと! ちゃんと聞きなさいよ!?」


 茜のおかず説明を適当に聞き流しながらお弁当を頂いた。


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