第34話 困った時はお互い様

 放課後、俺は家で海佳うみかの部活が終わるのを待っていた。

 朝は海佳の鋭さに負けて諦めるしかなかったが、実際のところあまり人に進んで話したいと思う内容ではない。

 話すと約束したからにはもちろん話さなきゃいけないが、まさか嘘がバレるとは思わなかった。

 海佳が家に来るまでしばらく待っていると、やがて一階からインターホンの音が聞こえてきた。


「はいはい……って、え?」


 急いで玄関に向かいドアを開けると、目の前には海佳と遥香はるかが立っていた。

 海佳が来るのは分かっていたが、なぜ遥香も一緒なのだろうか。


「なんで遥香もいるんだ?」

「ごめんね、綾人あやと。本当は私一人で来る予定だったんだけど」

「綾人くんの秘密、私も気になる!」


 もしかして海佳のやつ、遥香に朝のことを話してしまったのだろうか。

 あまり人には知られたくないんだけどな……。


「別に秘密ってわけじゃないんだけどな。海佳、まさか言いふらしたりしてないだろうな?」

「してないよ」

「じゃあなんで遥香が知ってるんだよ」

「それは……」

「ふっふっふ、なんと! 私は朝二人を見かけて尾行していたのだ!」

「えー……」


 どうやら朝の会話は全部聞かれていたらしい。

 いや、普通にいたなら話しかけろよ。


「はぁ、分かったよ。とにかく上がってくれ」

「やったー!」

「むぅ。綾人、私の時は嘘をついてまで隠そうとしたくせに、遥香の時は何も言わないんだ」

「もうほとんど知られてるし、今更隠そうとしても無駄だろ」


 そして言う相手が一人から二人に増えただけ。

 ただ今からする話は他言無用にしてもらう必要がある。


「誰にも言わないって約束してくれるか?」

「もちろん! 私、口は堅いからね」


 遥香は胸を張って自慢してくる。本当かよ。

 だが内容を聞けば、普通に考えて他言してはいけないと悟るだろう。

 一応この二人には、以前から視線が気になっていることは伝えてある。最近は話に出していないが。


「ちょっと部屋で待っててくれ。麦茶出すから」

「「おっけー」」


 二人を先に部屋へ向かわせ、麦茶を三人分コップに注いでから俺も部屋に向かった。

 海佳は俺のベッドに座り、遥香はベッドにもたれかかるように床に座っている。

 俺はそんな二人に麦茶を渡してから、早速話を始めた。


 話したことを要約すると、俺がストーカーに遭っているかもしれないということ。昨日そのストーカーの正体を探ってみたが、失敗に終わったということだ。

 二人は麦茶を飲みながら、時々相槌を打ちつつ聞いてくれた。すべてを話し終えると、海佳は怯えつつも少し怒った表情をしており、遥香は真面目な表情で何かを考えていた。


「ストーカーに遭ってるかもしれない、か。信じ難い話だけど、綾人くん前からよく視線を感じるって言ってたもんね」

「綾人に付きまとうなんて……許さない」

「ああ。ちゃんと姿を見たことないから確証はないけど、ほぼ確実にいると俺は思ってる」

「警察には?」

「言ってない。俺の勘違いって可能性もあるし、事件性がない限り警察は動いてくれないだろうからな」

「そっか……」


 話を聞いた二人は一斉に黙り込んでしまう。

 ストーカーされている。以前にも同じ学校の生徒(桜島さくらじまさん)が被害にあったことを知っているため、女子たちは特に怯えていた。

 そして今回の俺の件がもし本当ならば、恐怖心はさらに強まってしまうだろう。

 次は自分が遭うかもしれない。

 身近な人が短い期間で続いてストーカーに遭えば、誰だってそう思ってしまう。


「綾人くんはそのストーカーを捕まえたいってことだよね?」

「もちろんだ。自分の手で捕まえて、なぜ俺をストーカーしたのか。何が目的なのか聞きたい」


 ストーカーのことはまだよく知らないが、約一ヶ月半で悪質な接触や危害を加えられたことはないはず。

 知らない相手。異常なまでの執着。

 相手はまだ様子をうかがい、俺を追って観察しているだけで近づこうともしてきていない。

 今後の相手の行動が読めないため、捕まえようとするのはあまり得策ではないのかもしれない。下手に動いて危害を加えられる可能性だって十分にある。

 しかし何かをしなければ、何も始まらない。

 やめてくれるのを待ったとしても、きっとやめてはくれないだろう。


「俺がやるしかないんだ」


 ストーカーされているということは、その原因は俺にあるはずだ。すごく怖いが、やるしかない。


「「わかった」」


 海佳と遥香はお互いに目を合わせ、何かを決意したように頷く。

 そして二人して立ち上がり、こちらに近づいてきた。


「少し怖いけど、綾人くんが困ってるなら」

「私たちが協力してあげる」


 あまり他の人を巻き込みたくはなかった。

 だから誰にも話さず、初めは一人でストーカーの正体を暴こうとした。

 なのに、どうしてだろう。

 協力してあげると言われて、すごく嬉しかった。

 ストーカーをするような危ないヤツに関わって、二人は当事者でもないのに危険な目に遭うかもしれない。

 その危険性を分かっていてもなお、俺のために協力してくれるなんて。本当に良い友達を持ったと思う。


「……いいのか?」

「当たり前でしょ」

「困ったらお互い様。私たちなんて、綾人くんに助けられてばっかりなんだから」

「二人とも……」


 二人の温かい言葉に、思わず泣きそうになってしまう。

 俺がこの話をしてしまった時点で、もう既に巻き込んでしまっている。

 もし二人に危険が及ぶようなことがあれば、その時は俺がなんとしてでも守ろう。

 そう強く心に決め、精一杯の感謝の気持ちを込めて頭を下げた。


「ありがとう。よろしく頼む」

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