第14話 ボーイズラブ?じゃないよね?

 金曜日、昼


 古都が午前中の業務を終えて昼食に出かけようとすると、一人の男性が声をかけてきた。


「おい、神代。二人で飯行かないか?」


 5歳上の同じ部署の先輩、青木さんである。茶髪でチャラい印象だ。入社から業務を教わっていてお世話になっている。


「あ、はい。もちろん是非。」


「俺さ、ちょっと神代に大事な話があるんだよね。」


 そう言って、連れてこられたのは会社からほど近い中華屋。会社員で賑わう店内に入り席につくと、ランチセットの注文をする。乾いた喉を水で潤すと話を進めた。


古都「青木さん、大事な話ってなんですか?」


青木「ん?ああ、いやちょっと言いづらいんだけどさ。」


古都「え、なんでしょう?」


青木「おれさ、最近ずっと神代と仕事してるじゃん?だから、お前しかいないかなーって思って、、」


古都(え?なんだ?)


青木「俺はな、一生懸命やってるお前のことが結構好きでな、」


古都(好きって言ったのか?なんだ?この空気は。もしかして・・・)


青木「お前が嫌じゃなければ俺と・・・」


古都(え、いやいや、これはっ)「ちょ、待ってください、青木さんっ!」


青木「いや、でも俺もう決めちゃっててさ、言っちゃったんだよ。神代も連れてくって。部長に。」


古都「ん?はい??」


青木「イヤー悪い。来週からの出張、お前も連れて行きたいって言っちゃったんだ。2泊なんだけど。悪いな。」


古都「あ…、はい。出張ですか。。」


青木「ん?何だと思ったの?」


古都「え、いや。何でもないです。あ、飯来ましたね、食べましょう食べましょう。」


青木「おう。頂きまーす。って、で。月曜の朝礼終わったら行くからさ。急でホントすまん。でも出張初めて同行するだろ?行っておいた方が良いからさ。俺の補佐しながら要領つかんどけな?お前なら大丈夫だって俺は思ってるから。」


古都「ありがとうございます。頑張ります。」


(ああ、焦った。)



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「ということで、月曜から2日間いないから。」



 金曜の仕事終わり、古都の家には恋人になった紗良が初めて泊まりに来ていた。


紗良「えー、そうなの?2日も会えないなんて寂しいねぇ?」


古都「寂しいの?」


紗良「寂しいですよ?」


古都「そっか。でも明日も明後日も一緒に居るし。」


紗良「それとこれとは別ですよ?」


古都「そうですか。」


紗良「仕事だから怒ってるわけじゃないですよ?その分補充させてくださいってことですね。」


古都「補充ですか。どうしたらできますかね?」


 そんなやりとりのあと、ソファに座っていた俺の足を紗良が少し広げると、足の間に座るようにして誘導してきたから、俺はソファに横になって紗良を抱く形になった。


 紗良のお腹のあたりに俺の両手がまわされて、紗良の手がその手に乗せられてすりすりとなでられている。


古都「補充できそう?」


紗良「うん。恋人らしいこと、してね?」


 初めて紗良が今日、ここに泊まる。恋人らしいことと聞いて、俺の頭の中には当然、寝るときのことがよぎった。それは初めて紗良を抱いて良いということだろう。待ちきれない思いがして、体がそわついた。


紗良「好きだよ、古都君。」


古都「俺も好きだよ、紗良。」


 紗良の顔が少しこちらを向いたので、俺は紗良の頬に片手を添えて、軽くキスをした。それだけでは物足りないかのように、紗良が全身をぐるっと回して、こちらにむき直した。


 俺の上に紗良が乗る姿勢で動きながら、キスを続ける。


紗良「仕事中は姿が見えても話せないから、こうしてられるのが嬉しいの。」


古都「それは俺だって。」


紗良「いっぱい補充してね。」


古都「うん。」


 可愛らしく甘い声でキスをねだる紗良の背中に両手をまわすと、服の中に手を入れて軽く背中をなでた。


紗良「んっ、古都君…」



 そのまましばらく抱き合いながらキスをしたあと、二人はベッドに移動して始めての夜を甘く甘く過ごした。



 翌日の朝、目が覚めると、紗良は俺の顔を見つめながらニコニコと嬉しそうにしていた。



古都「んっ…なに、、起きてたの?」


紗良「うん。おはよ。」


 紗良が俺の胸に顔を潜らせてきたので、抱きしめながらあくびをした。


古都「くわぁ…、」


紗良「まだ眠い?」


古都「いや…、あくびでただけ。」


紗良「かわいいね~」


古都「いや、どこがよ。笑」


紗良「ちょーかわいいよ。さっき寝てるところ写メ撮っちゃった。」


古都「うそ、おっさんの寝顔撮ってもしょーがないでしょ。」


紗良「おっさん言うな。同い年だよ?」


古都「あ、やべ。」


紗良「ん~、こうしてると温かくて幸せだけど、もっと惚れさせるために朝ご飯でも作ろうかなっ!」


「それとも…、朝からHしたほうが効果的?」


古都「…Hしてから朝ご飯でお願いします。。」


紗良「素直♡」


 ああ、幸せな休みだな。




 べったりとくっつきっぱなしの土日を過ごして、二人は恋人らしい空気に少しずつ慣れてきていた。


 紗良は自分用の歯ブラシを洗面台に置いていくらしい。今後もちょくちょく泊まりに来るからなのと、マーキングの意味も含めてだろう。浮気防止である。


 紗良は意外にもべったりと甘えてくるタイプだった。見た目が綺麗なお姉さん風であるため、古都にはそんな一面が意外に見えることを伝えると、「想像と違った?がっかりした?」と紗良が言ったが、古都は自分のことがそれほど好きだったのかと嬉しい気持ちなだけだった。


 蕩けるような顔をして、「好き」と言っては顔を見つめてくる紗良。この幸せを続けていきたいと古都は思った。


 スマートフォンには、佳奈からのメッセージが数件、既読にしたままになっている。


『会えないのは仕方ないけど、少しは構って欲しいな。電話できる?』


 そうメッセージが来たのは土曜日の晩のこと。紗良がべったりだったために返信すらできていない。


 こんなんで俺が二股などかけられるわけがないのだと、古都は思った。


(ちゃんと、しないと。)


 日曜日の夕方、明日からの出張の準備がしたいからと言って、紗良には早めに自分の家に帰るように促した。夜に一人になってから佳奈に電話するためである。


 好きな人と付き合うことになったから、佳奈とは付き合えない。


 そう正直に打ち明けようと思った。


 明日からたった二日会えないことを寂しがる紗良は、帰る間際にずっと、「行かないで」と冗談だとわかるように笑いながら言っていて、古都に抱きついて離れなかった。


 この可愛い恋人に、いつまでも隠し事をしていてはいけない。




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