聖女やめます!…タダ働きはもう嫌!友達作ります!冒険者なります!お金稼ぎます!ちゃっかりも世界救います!

@ss9

第1話 聖女やめます!

「いやぁ!こんな生活!もういやだぁ!」


 冬の寒さによって底冷えする石壁の4畳部屋。

 

 19時から行われる1時間の祈りが終わった私、「クミ・スグロ」は椅子から立ち上がり、部屋の一角を支配する机を叩く。


「いつもの発作かなー」


 私の横を漂い、呑気に窓から綺麗な満月を眺める風の妖精「シルフィ」

 物心ついた時から私の横を飛んでいて、その頃から間伸びした声で話す人物?

 今も変わらない。何事も他人事で、私にだけ見える四大精霊の一角。


 「あんたはいいよ!他人事だもん!」


 腹の虫が喚き上げるので、今度は手を斧にして思いっきり叩く。

切れ味は実物以上。

四角い机は真ん中から左右に割れる。


「おおー見事ー」


風に舞う木の葉のように空中を漂い、冷たい石床に仰向けで眠る。


「おおー冷たいねー」

「ええ。冷たすぎるわね!あなたが!」

「おーおー怖いねー」

「私が1日パン一つで朝からこんな夜中まで祈りと務めをさせられてる横で、あんたは私の頭の上で寝てるんだけだもんね!」


 仕事に忙殺されてる私は、いつもならここで寝落ちしてしまうのだが、今日は違う。

私は本気だ。本気でここを出ていく!


 5年も休みなく働き、時には冒険者達が対処できないモンスターを退治した。

 しかし、私が稼いだお金は全て教会のものだと言われる。

 外出したくても軟禁されている。


「おおー本気なんだねぇー」


シルフィは、いつの間にか私の頭であぐらをかき呑気にうとうとし始める。


「当てはあるのかなー」

「あるよ!というか思い出した!数年前のドラゴン討伐で一緒になった冒険者の人に戦いながら愚痴ったら誘われてたわ」

「おおーじゃあ、そこに行くんだねー」

「うん!私は学園都市で学園に通って友達を作って冒険者になる!そしてーー」


 金色の豪邸に住み、金貨の風呂に浸かり金色の食べ物飲み物を楽しむ未来の私の姿……


「私は楽して!大金持ちになる!ーー不労所得!バンザイ!」

「ふろー所得~ばんざいー」


 荷造りの終わったバッグを亜空間に放り込み、冷たい床から立ち上がる。


「よし!やるぞ!ーーーー索敵(サーチ)」


 私の頭に大聖堂のマップが浮かぶ。

 現在地は、大聖堂一階の真ん中。

 20人の見張りが外へと伸びる一本道を行ったり来たり。

 ドアの外には、5人の兵士。


 「鑑定」


 レベル50の兵士が5人……職業は、重戦士2人、剣士が2人、魔法使いが1人。

 案外雑魚ばっかりで驚いた。

 全身鎧のいかつい兵士たちだったからもっとレベルが高いと思っていた。


 「しかし、身分が「奴隷」ってなってるけど果たして?」

 「さあねーzzz」


 どこまでも呑気なシルフィは邪魔なので亜空間に放り込んでおく。


 こんな大聖堂に奴隷……

 しかも、兵士全員じゃなくて、半分くらい


 「おっと……」


 疲れで頭がグラグラしてきた。

 考えるのはやめよう。いつも私を部屋に放り込むような奴らだ。


「ふっふっふっーー手加減はしない!」


 鉄格子で封鎖された鉄扉の前に立ち、振りかぶる右拳に風魔法を乗せる。


 その名も「風拳」!相変わらずかっこいい名前だぜ!

 まあ、込めた魔力の分だけ威力が上がるだけなんだけど。

 ちなみにMP 1消費でニ倍の威力になる。


 「私のMPが9999あるから全部こめたらどんな威力になるんだ?」


 今度試してみようかな?

 それではレッツ!


 「GO!」


 右拳を思いっきり振るう。


 鉄格子と共に鉄扉が鈍い音を上げて真ん中から凹み吹き飛ぶ。

 そのまま通路の壁を突き破って大聖堂の外へと消えていったーーやりすぎた。


 「ま、いいや。死人は出てないしーー

お邪魔しました!」 


 お世話になった部屋にちゃんと挨拶してから通路に出る。

 なぜなら、まだ!聖女ですから。


 通路に出るとドアの外にいた兵士たちはなぜか壁に刺さっていた。


 「うーん?30点だね。めり込み方が、いまいちだなぁ……」


 しかし、その奥にはまだ兵士たちが15人残っていた。

 震える姿に笑いが止まらないぜぇ!

 

「ひひひ!血祭りだぁ!ーー風弾」


 甲冑サイズの風を50程打ち出す。

 こんな魔法は手を使わなくても、あくびしながらでも扱える。


 「ふああ……ねみぃ」


 眠い目をゴシゴシ……


 腰を抜かした兵士たちは風弾に当たった瞬間に弾け飛び、通路を転がる。


「おお!気絶してるようだね!しかーし!容赦はしない!ーーーーテレポート!」


 廊下に転がる兵士たちの元へ転移。


 「おらぁ!止めじゃあ!」


 転がる兵士たちをボールのように蹴り上げ全員を天井へと突き刺す。

 ピーンと天井に突き刺さる兵士たち。


 「うーん……手が伸びてない!100点!から25点引いて……えっと、多分!70から80点の間!」


 丁寧にめり込み具合を評価してあげる。「メリコマセニスト」として。

 それと胸を焦がしていた炎が消えてすっきり。


「これが爽やかな気持ちって言うのかなぁ、綺麗になったねぇ…さて、ーーテレポート」


 次はニ階の金庫へと移動。

 外は兵士たちが守っているので、金庫の内側へ。

 

 くんくん!わかる!私にはわかる!目の前に広がる大量の金貨達!うほーい!


 「はしゃぎすぎても良くないな。さっさと奪うもの奪ってとんずらだ……」


 広い広い金庫の中を歩く。

 どこに置いてあるかはわからない。

だけど、冒険者ギルドのマークが描かれた袋に入っていたからわかる。

探すこと10分、お目当てのものを見つけ出す。


 「私のモンスター討伐報酬!やっと会えたね!愛しき我が金貨達!」


 30個の袋が部屋の端に無造作に投げつけられていた。

 それら全てに抱擁(ほうよう)し頭を撫でて、最後にお帰りのキスをしてから亜空間に放り込む。

 今は、緊急を要するからね。許してくれよ!愛しの金貨たちよ!


 「愛しき我が金貨達は回収した。用は済んだし……ワーPの前に消す飛ばそう……

ーーーー火炎球」


 金庫の重厚な扉に向かって甲冑大の燃え上がる火の球を打ち込む。

 無造作に投げつけられた様子の愛しき我が金貨の恨み!……まあ、私も投げつけたけど!


 火炎球によって、どんな敵の侵入も許さないと喧伝していた大聖堂の金庫が溶けて消え去る。

 そして、警備兵を吹き飛ばし、火炎球は大聖堂に大きな穴を開けて進んでいき彼方へと消えていく。


「テレポートーーおらぁ!止めじゃあ!」


 兵士達を天井に突き刺してから


 「うん!ナイスめり込み!100点からおまけで10点引いとくよ!90点!」


 採点してから、「空間歩法(ワープ)」で大聖堂を後にする。


 やっぱりめり込みさいこー!

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