第041話 拍子抜け

「はっ!?」


 俺は不意に目を覚ました。


 昨日は中々寝付けなくてずっと起きていたはずだけど、いつの間にか眠っていたらしい。いや、そんなことよりも今は何時だ?


 すぐに時計を見る。


「やっべ!! 十時四十分じゃねぇか!!」


 今日の試験は十一時から。残り二十分しかない。俺はベッドから飛び起きて、いつもの服に袖を通してクリーンで身だしなみを整える。


 コレットは朝からアメリアと出かけると言っていたので、家には誰もいない。


「いってきまーす!! フィジカルブースト!!」


 急いで家を出発し、試験会場まで全力で足を動かした。





「すいません、船舶免許試験を受ける者なんですが……」


 そのおかげで会場には二分前に到着。受付のお姉さんに前のめりに場所を尋ねる。


「し、試験会場は二〇一号会議室になります。あちらの案内に従ってお進みください」

「ありがとうございます!!」


 びっくりしながらもきちんと答えてくれたお姉さんに礼を言って、俺は再び駆けだした。


 案内に従って進むと、一つだけ扉が開いている部屋がある。俺はそこに飛びこんだ。そこには俺以外の受験者が揃っていて、試験監督らしき人物が今にも試験を始めるところだった。


「よし、ギリギリセーフ!! 間に合った!!」


 俺はついつい叫んでいた。


「お前がキョウ・クロスゲートか?」


 強面の試験監督が威圧感を出しながら俺に話しかけてきた。


「そうだけど? あんたが試験監督?」

「ああ。もうすぐ時間だ。早く席に座れ」

「了解」


 でも、俺はVRMMORPGで巨大なモンスターと戦い続けてきた男。この程度の威圧感なんてそよ風みたいなもんだ。


 普通に返事を返したら、試験監督は目を丸くした。俺は試験監督の指示に従って空いている俺の席に腰を下ろす。


「よし、今日は午前中に学科試験、午後が実技試験だ。学科試験で落ちた奴は実技試験は受けられない。以上だ。すぐに学科試験を始める」


 試験監督が流れを説明した後、タブレットが渡された。これで問題を解くらしい。


「それでは学科試験の制限時間は六十分だ。準備はいいか? よーい、スタート」


 全員にいきわたると、試験監督によって試験が開始された。


「なんだこれ、簡単だな」


 俺は物凄く小さく呟いた後、問題を解き始める。参考書を全て覚えている俺の敵ではなく、問題を一瞬で回答していった。


 気付けば、たった十分で全ての問題に対する回答が終わっていた。


 うーん、後五十分の間、暇だな。かといって、外に出ていいか分からないし。しょうがないから寝て待とう。


 俺はタブレットをずらして、机に突っ伏して寝始める。昨日あまり眠れなかったせいか、すぐに寝入ってしまった。


「よーし、お前ら、学科試験は終了だ!! 結果発表まで少し待て!!」


 俺たちはそのまま席で待たされること十分。


「それじゃあ、合格者を発表するぞ」


 試験監督によってすぐに合格者の名前が呼ばれる。


「キョウ・クロスゲート」


 俺も問題なく合格できた。後は午後からの試験を越えれば免許がもらえるな。


 合格した受験者たちは各々お昼ご飯を食べに行った。俺は特に腹が空いていないので、そのままそこで寝て待った。


「よし、残った奴らは俺についてこい」


 時間になると、教官が俺たちを別室に連れていく。その部屋には大きな卵型のマシーンが三十台くらい並べられていた。


「それじゃあ、各々の受験番号がついているシミュレーターに入ってくれ」


 俺は試験監督の言葉に従って俺の番号が書いてあるマシーンの中に入った。中は座り心地にいい椅子になっていて、そこに座ると、空いていた扉が閉まり、頭にヘッドギアみたいな形の器具が下りてくる。


『目を閉じ、「テスト、スタート」と言ってください』

「テスト、スタート」


 機械の音声に従い、俺は目を閉じて言葉を発した。すると、景色が変わり、宇宙船の操縦席に座っている状態になる。


『それでは、指示に従って船を操縦してください。まずは左に旋回してください』


 すぐに案内音声が流れてきて、それに従って俺は船を操縦する。


 最初は船の基本的な捜査をやり、徐々にそのレベルが上がっていく。ある程度レベルが上がったところで通常のテストはここまでという表示が出た。


 こんなに簡単でいいんだ。


『エクストラモードに挑戦しますか?』


 俺が拍子抜けしていると、こんな表示が現れる。こんなものが現れたらやらずにはいられないのがゲーマーだ。俺はすぐにイエスボタンをタッチしてエクストラモードを始めた。


 エクストラモードはアクロバティックな船の軌道に加え、宙賊との戦闘も行われた。


 俺は向かってくる敵の攻撃を躱して、一度も攻撃を受けることなく全ての敵を撃墜していく。


『コングラッチュレーション!! 全ステージをクリアしました』

「え、もう終わり?」


 その結果、目の前にポップアップウィンドウが合われてゲームの修了を告げられた。俺はなんとなく誰かに見られているような気がして、上を見上げてにっこりと笑う。


『ログアウトします』


 その後、すぐに現実に復帰した。俺は問題なく合格だった。


 でも、こんなに簡単だったなら緊張する必要なかったな。


 俺は免許を受け取って家に帰った。

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