第032話 神速でお金を稼ぐ方法① デビュー

「マズいことになったわね……」

「三億ユラをたった三日なんて無理だよぉ……」


 アメリアが沈黙を破り、コレットが顔面蒼白になりながら呟く。


「ははははっ。逆に好都合だよ。正面から返済してやろうじゃないか」


 俺はそんな空気を笑い飛ばすように言った。

 相手がそうくるなら正攻法で攻略するだけだ。


「どうやって?」

「お金を稼ぐ方法なら考えてある。場所を移動しよう。ついてきてくれ」


 俺は困惑する二人を促してマテリアルギルドから場所を移した。




「皆さん、こんにちは。コレットのマジカルチャンネルにようこそ!! はじめまして、私はコレット!! 今日配信者デビューした新人SpaTuberだよ。よろしくね!! 私は皆に、世にも不思議なマジックを披露したいと思います。今日見せるのは、どんなに壊れた物でも一瞬で直してしまうマジックだよ!!」


 コレットがフリフリの衣装を着て、球体のドローンに向かって一生懸命キャラを作り、ニコニコと話しかけている。


 楽しそうで何よりだ。


「で、これは何よ?」


 俺の横でカメラに映るコレットの様子を見ているアメリアが、俺をじっとりとした目で睨んできた。


「何って動画の撮影だけど?」


 俺はその視線を華麗に受け流して答える。


「これが稼げる方法なの?」

「勿論だ」


 疑わしそうに聞いてくるアメリアに俺はしっかりと頷いた。


 一体俺たちが何をやっているのかというと、動画の生配信だ。


 地球では、TrueTubeという動画共有サービスを筆頭として、多数の動画配信サイトが存在した。そこでは動画をアップしたり、実況中継のように生で配信する様子を流したりすることができた。許可が下りれば、収益を貰える仕組みになっている。


 この世界にも似たような動画配信サイトがあり、その名もSpaTubeという。


 配信は女性の方が人気が出やすい。特にルックスが良い女の子はそれだけで人気が出たりする。人気が出れば、一日で一億円以上を稼いでしまうこともある。


 だから、俺はコレットを配信者デビューさせることにした。俺たちもそれを目指すつもりだ。


 複数の星系を支配下に置くキヴェト帝国の人口は地球の人口を遥かに超える。正確な数字は分からないけど、数百億人は軽くいる。


 つまり、動画を見ている人が地球の十倍以上いるわけだ。それだけで十分可能性はある。


 そして、この配信の目玉はコレットの容姿じゃない。じゃあ目玉がなんなのかと言えば、それは魔法だ。


 ただし、あくまでマジックと体で見せる。種も仕掛けもないし、生配信なので編集を疑われる心配もない。見ている人にはさぞ驚かれることだろう。


 これでウケないはずがない。


 勿論、登録したばかりじゃ閲覧者は少ない。そこで、俺は依頼を受けた人たちやアメリアとコレットの伝手で協力を頼み、コレットのチャンネルを宣伝してもらった。


 そのおかげでコレットの配信は、新人にもかかわらず、最初から数百人という人間が見に来てくれている。


"コレットちゃん、可愛い"

"初々しい姿がいいね"

"ファンになりました。チャンネル登録します"

”僕にはどんなマジックのネタも通用しないよ”


 コメントはコレットの可愛さに対する言及で溢れていた。中にはガチマジックオタクみたいなのも混じっているけど、それはそれでいい。


「今お邪魔しているのはコロニーのハンガー。今日はここにある壊れているものを直していくよ。最後は凄い物を直しみせるから楽しみにしてね!! 最初はこれ!!」


 コレットがそう言ってカメラに映すのは、バラバラになった携帯端末。


「携帯端末だよ!! はい、ちゃんと壊れてるよね?」


"コレットちゃん、無理しなくていいからね"

"コレットちゃん、ファイト"

"おじさんが新しいの買ってあげるよ"


 携帯端末が動かないことを証明するコレットを閲覧者たちは、生暖かいコメントで応援してくれる。


「それじゃあ、いくよ? よーく見ててね? リペアッ!!」


 複数のドローンカメラが携帯端末をアップと、コレットが手を翳している様子、そして、コレットの顔を映す。


 淡い光を放つバラバラになった部品が、まるで逆再生されるように元の状態に戻っていく。そしてたった数十秒で元な状態に戻った。


 実はこれ、俺が後ろで魔法を使っている。コレットはまだリペアが使えないからだ。でも、ゆくゆくはコレット自身の力で配信していけるようになるはずだ。


「はい、画面もちゃんとついたよ。私のマジックはどうだったかな?」


"おいおい、どうなってんだ、こりゃ……"

”これは凄い!!"

"いやいや、これは絶対仕掛けがあるんだよ"

"むむむ……これは次も見ないとな"


 コメント欄は好意的な意見と、否定的な意見に分かれる。最初の一回で受け入れられるとは思っていない。


「それじゃあ、次に直すのはこれ!! 私のパワードスーツ。ボロボロになっちゃったんだよね……」


 次に、カメラに映し出されたのはパワードスーツ。ピッチピチのタイトなスーツにごついパーツが付いているやつだ。生地が破けたり、パーツが破損してしまっていた。


"むしろ、そのボロボロのパワードスーツが欲しい"

"コレットたんのパワードスーツぺろぺろ"

"流石にこれは直せないよなぁ"

"よし、これが直ったら、おれはスパチャする"


 そのパワードスーツを見た閲覧者から、ついにスパチャ―いわゆる投げ銭と呼ばれる機能で配信者をお金で直接的に支援できる機能―するという人たちが現れる。


 端末が直る過程が映っている動画が拡散されたのか、いつの間にかリアルタイムで閲覧している人が数千を超えていた。


「それじゃあ、いくよ? リペアッ!!」


 手を翳されたパワードスーツが先程の携帯端末と同じように、見る見るうちに完全な状態を取り戻していく。


"これマジでどうやってんの?"

"全然タネがわからねぇ!!"

"100ユラ:すげぇえええええ!!"

"10ユラ:チャンネル登録します!!"


 一回目で半信半疑だった奴らが目の色を変えて沸き立つ。コメント欄も見ている人が増えてきて、なかなか追いつかなくなってきた。


 そして、本当に投げ銭によって収益が発生し始めた。


 その後コレットは、壊れた家電、警備ロボット、搬送ロボットなど徐々に難易度を上げて修復していく。


「次が最後だよ。次はこちら!! そう、宇宙船!!」


"流石にこれは……"

”今までので十分凄さはわかったから、もうやめとこ!!”

"20ユラ:成功祈願!!"


 カメラが原型を留めていない宇宙船を映し出すと、無理だというコメントと、応援コメントが大半を占めた。


 そして、この頃には閲覧者が数千万に達していた。


「ふっふっふー。皆は無理だと思ってるかもしれないけど、私なら簡単に直せちゃうんだから!! それじゃあ皆、準備はいーい?」


 コレットがアイドルのライブのように閲覧者たちに語りかける。


"全裸待機!!"

"一瞬たりとも見逃さないよ!!"

"なにこれ今来た"

"美少女が、一瞬で物を直す"

"理解した。ワクワク"


 皆が固唾をのんで待ちわびているのがありありと分かる。


「いっくよー!! リペアッ!!」


 コレットが宇宙船に向かって手を翳し、良い感じに映るように複数のドローンで撮影する。


 宇宙船が何の機材も使っていないのに、淡い光に包まれて勝手に組み上がっていく。


"アメイジング!!"

"どうなってんだ、これはぁああああ!!"

"どんな仕掛けを使ったら、こんなことができるんだ!?"


 今までとは規模が違う光景に、コメント欄のスピードが加速してもう追えそうにない。それと同時に投げ銭の金額も積み上がっていく。


 数十秒後、そこには元の形を取り戻したコレットの船の姿があった。実は今回の配信の企画は、コレットの船を直すついでに、お金を稼げないか、と考えたところに端を発している。


 すでにチャンネル登録者は数十万人を超え、スパチャも数万ユラに到達していた。


 これだけで大成功と言わざるを得ない。


「じゃじゃーん!! こんなに大きな船も直すことができました!!」


 コレットが船の前でポーズを決める。


"マジでなんもわからんかった"

"ちょっと見返してるけど、何か仕掛けをしているように見えない……"

"100ユラ:イッツァミラクル!!"

"30ユラ:もうファンです"

"50ユラ:言葉はいらない"


「えへへ~、皆応援ありがとう!! すっごく嬉しいよ!! ということで今日の配信はここまで!! 楽しんでもらえたかな? これからも世にも不思議なマジックの世界を配信していくからぜひチャンネル登録してね!! それじゃあ、ばいばーい!!」


 コレットが皆に別れを告げて配信を終了した。


「はぁ~、疲れた~!!」

「お疲れ~」


 配信が切れた直後、ぐったりとするコレットに俺は近づいて労う。


「どうだった?」

「もうばっちり。今日だけで六万ユラくらいにはなったよ」


 結果を聞いてくるコレットに、俺は笑いながら成果を伝えた。


「それだけかぁ~」


 コレットは、六万ユラ、つまり六百万円を数十分の動画で稼いだというのに残念そうにする。


 確かに目標が三億ユラと考えると、そう思うのも無理はない。


「そういうなって、動画が増えていけば、それだけで収益が増えるようになるし、これからどんどんチャンネル登録者も増えるだろうから、次はもっと稼げるようになるぞ」

「でも、三日じゃ間に合わないよね?」

「それは大丈夫だ。稼ぐ方法は一つじゃないからな?」


 コレットの当然の疑問に対して、俺はニヤリと笑って答えた。


「え、そうなの?」

「ああ。これだけで三億ユラ稼ごうとは思っていないさ」


 知らなかったという表情のコレットに、俺は頷く。


「どうするつもり?」

「次は船を使って稼ぐ」


 アメリアの質問に対して、俺は直ったばかりの宇宙船を指さした。

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