第022話 驚愕

 彼女の端末に映っていたページがおかしなことになっていた。


 俺はその画面をもう一度よく確認する。

 そこには俺が入っていた箱のオークションページが表示されていた。


「一、十、百……一千万ユラ!?」


 俺が入っていた箱の金額はすでに一千万ユラを超えている。


 日本円にして十億円だ。俺でも稼ぐのに数年かかる。

 しかも、その金額は未だに凄い勢いで増え続けていた。


 一体誰がこんな値段で買うんだ?


 俺が箱から出た後、いろいろ調べてみたけど、なんの変哲もないただの箱になっていた。色々弄ってみたけど、俺が目を覚ました時のように声を発することもない。


 確かにシックな雰囲気の材料に、独自の文化を感じさせる模様、そして、輝く宝石のような石。見た目は華やかで心が擽られるものがあるけど、それに十億円出せるかと言われればノーだ。


 お金持ちの感覚は全然分からないな……。


「高く売れるとは思っていたけど、ここまでとは思わなかったよ……」

「俺も驚いた……」

「一体いくらになるんだろ……?」


 入札の通知音が鳴りやまない携帯端末を見ながらコレットは呆然と呟いた。


「締め切りはいつなんだ?」

「今日の日付が変わるころだね」

「あともう少しだな」


 この世界は、一日が二十四時間、一週間が七日、一カ月が三十日か三十一日、一年が三百六十五日。完全に地球と同じだった。とても分かりやすくて助かっている。


 後一時間くらいで締め切りの時間がやってくる。

 締め切りが迫るにつれて、価格のつり上げ競争が激しくなってきた。


「うわ……もう千五百万ユラ超えた」

「こりゃあいくところまでいきそうだな」


 たった数分で百万ユラ上昇する。千六百万、千七百万、千八百万、どんどん価格は高くなり、締め切りまで一分切ったところで入札金額は二千九百万ユラを超えていた。


「あ、三千万こえちゃった!!」


 そして、気づけば三千万ユラを超えてしまった。つまり、三十億円だ。

 なんと、最終的にアンティークの箱は三千五百万ユラで落札されることになった。


 落札された商品はオークションの運営会社が守秘義務を守ったうえで、きちんと入金から発送までをやってくれるらしい。


 後日、担当者がやってくるとのこと。

 ただし、代金の二割はオークション会社が持っていく。


 七億円くらいオークション会社が持っていくことになるわけか。

 でも、輸送費とか考えたら、そこまで儲けにならないような気もする。

 宇宙は広大だ。輸送代だけでもバカにならないはずだ。


 とりあえず、七百万ユラを差し引いても、二千八百万ユラ、二十八臆円だ。

 コレットの借金がどのくらいあるか分からないけど、もしかしたら全部返せたりするんじゃないだろうか?


「いやぁ……ここまで上がるなんてね……」

「そうだな……」


 俺たちは金額の大きさに二人して放心状態になる。


「そういえば、借金はいくらあるんだ?」

「四千万ユラだね」

「お、おう……そうか……」


 質問してみたら、予想以上に多い金額にしどろもどろになってしまう。

 箱が高く売れてなかったら、まだまだ返済に時間が掛かっていたはずだ。


「今回は本当に運が良かったよ。修理代を引いても半分以上返せるし」

「良かったな」


 コレットは思った以上についているな。

 いや、ご両親が亡くなったことを考えると、そうでもないか……。


 それにしても四千万ユラ。いや、返済してその金額なのだとしたら、当時はもっとあったはずだ。その金額を貸してくれた相手というのはよっぽどいい人なんだろうな。


「うん。それもこれもキョウが許可してくれたからだよ。ありがとう!!」

「どういたしまして。役に立てたのなら何よりだ」


 コレットの言葉を聞いて、俺は頬を緩めた。


「あ、そうだ!! 今日はちょっとだけ贅沢しない?」


 コレットが良いことを思いついたと言わんばかりに提案する。


「お、どうするんだ?」

「お酒買ってさ。お祝いしようよ」

「おお、それはいいな」


 この世界での贅沢といってもよく分からなかったけど、そういうことか。


 思えば、俺は地球では大学生で二十歳を超えていた。でも、お酒を飲んだことは1度もない。


 なにせ、俺は学校以外の時間のほぼをDSOに費やしてきたせいで友達がいなかった。だから、飲む機会がなかったんだ。


 家族以外に誕生日を祝ってもらったことがなかったし、大学に入ってからはほとんど誰とも関わらなかったので、二十歳の誕生日もボッチで過ごす普通の一日だった。


 一人で飲もうとも思わなかったしな。


 なんだか、今思い返すと、物凄く虚しくなってきた。


 でも、それだけやり込んでいたからこそ、こうしてこの世界に転生して、コレットと出会い、魔法という名のチートを使って楽しい生活を送れていることを考えれば、それでよかったのかもしれないな。


「よし、買い物に行こ!!」

「了解」


 俺たちは無人タクシーに乗って酒が買える店に行った。


 そういえば、コレットはどう見ても高校生くらいにしか見えないけど、お酒を飲んてもいいんだろうか。


 いや、問題ないんだろうな。


 俺は深く考えることを止めた。


「「「「かんぱーい!!」」」」


 その後、アメリアやアナベルさんも呼び、一緒にお酒を飲んでコレットの借金が大きく減ることを喜び合った。


 しかし、この後に待ち受ける出来事を、今の俺たちはまだ何も知らなかった。

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