第005話 まだ難は去ってくれなかった……

「なんとかできないのか!?」

「無理。操縦がきかないの!!」

「マジか……」


 操縦桿をガチャガチャとぶん回し、アクセルとブレーキに相当するペダルを踏みながら、目じりに涙を浮かべて訴えるコレット。


 それにもかかわらず、船の進路は変わっていない。つまり今、この船は完全に操作不能。一難去ってまた一難とはこのことだ。


 何もしなければ遅かれ早かれどこかに激突してしまう。そうなったら俺たちは木端微塵になってしまう。


 ひとまずこの船を守らなければ。


「シールド!!」


 俺はすぐにこの船を衝突から守るために船体を覆うようにシールドを発動させる。これで激突して船が爆発するという可能性は激減したはずだ。


 ただ、この船がどこかにぶつかったら、今度はコロニー側が損傷して大爆発を起こして、ひどい災害を引き起こす可能性がある。


 そんなことになったら沢山の人が死んでしまうし、コロニーの運営にも影響を及ぼすかもしれない。


 もしそうなったら、仮に俺たちが生き残ったとしても大罪人として処刑されてしまうと思う。それは絶対に阻止しなきゃいけない。


「あわわわわ、ぶつかるうぅううっ!!」


 思考を遮るようにコレットの慌てた声が俺の耳に届いた。視線を上げると、目の前に船が浮かんでいる。


「あぶない!! レビテーション!!」


 俺は手を前に翳して魔法を唱えた。


 レビテーションは物体を浮かせる魔法。でも、浮かせて軽く移動させることもできる。即座に目の前にあった船を少し横にずらした。


「た、助かった……」

「上手くいった……」


 コレットは危機を脱した後もまだ顔を強張らせている。俺はなんとか事なきを得たことに安堵する。


「斥力まで操れるなんてどこにそんな道具を隠してるの!?」

「俺は生身だっての!!」


 コレットの詰問に俺は否定するように叫ぶ。

 俺が高性能なサイボーグかアンドロイドだとでも思っているのか!?


「うわっ!? こんなにいっぱい!?」


 そんなやり取りも束の間、浮かんでいる船が一つのわけがなかった。進行方向にはいくつもの船が列をなしていた。


「くっそっ!! レビテーション!!」


 ぶつかりそうな船を魔法を使って動かしていく。しかも他の船にぶつからないようにしなければならない。


「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」


 魔力は減ったような気がしないけど、次々と迫ってくる船を安全に配慮して移動させるのは精神的に疲れた。


 ハードモードのシューティングゲームでもやった気分だ。


「うわわわわ、今度こそ駄目かも!?」


 船を避けて安心したのも束の間、俺たちの目の前には壁が迫っていた。


 もうレビテーションで動かすことはできない。いや、待てよ、壁を浮かせないなら別の物を動かせばいいじゃない。


「レビテーション!!」


 俺は周囲を包み込むように魔法を放った。


 俺が魔法を掛けたのはこの船そのもの。レビテーションで操れれば、止めることができる。しかし、暴走する船はなかなかじゃじゃ馬で言うことを聞かない。


 無理やり止めようとする負荷が俺に掛かってきた。


「キョウ!! 顔が真っ赤だけど、大丈夫!?」


 俺の方を見たコレットが心配そうに尋ねる。


 どうりで顔が熱いと思ったら、頭に血が上っているらしい。


「大丈夫だ。任せてくれ!!」


 俺はコレットを心配させないように強がりを言って集中する。


「はぁああああああっ!!」


 気合を入れて叫んで魔力を注ぎこんでレビテーションの力を上げた。


「あっ。スピードが遅くなってきた!!」


 トップスピードだった宇宙船が徐々にその速度を落としていく。


「あと少し!!」


 俺はさらに魔力を込めてスピードを抑えた。


「だめ!! ぶつかっちゃう!!」


 しかし、減速する距離が足りず、壁がもう目と鼻の先へと迫っていた。

 コレットは対ショック姿勢を取る。


「いや、ここまで遅くなれば十分だ。エアークッション!!」


 俺はレビテーションを切って別の魔法を唱えた。


 エアークッションは、その名の通り、風のクッションを作り出す魔法。宇宙船の前に特大の風のクッションが生み出される。


 ――ボフンッ


 宇宙船がそのクッションへとダイブする。空気のクッションは宇宙船を柔らかく受け止めて、グググッとその勢いを殺す。


 ――コツンッ


 宇宙船はクッションの中をゆっくり進んでいき、最後に壁にほんの少しだけ触れてギリギリ停止した。


 ふぅ……どうにかなった。


 俺はなんとか事故を起こさずに済んで安堵する。


「え、あれ、どうなったの?」


 急に静かになったのを感じたコレットが、身を起こして船内を見回した。


「なんとか止まったよ……」

「えぇえええええええっ!? 激突したの!?」


 状況が飲みこめないコレット。彼女は俺の説明も聞かずに目の前に壁があることに酷く驚いて悲鳴を上げる。


「大丈夫だ。どっちも損傷はほとんどないはずだから」

「そっかぁ~、本当に良かったぁ!!」


 俺の言葉を聞いてコレットは心の底から安堵した。


「また助けられちゃったね。ありがと!!」

「いや、俺も死にたくなかっただけだから。コレットも無事でよかった」


 俺たちは二人の無事を喜び合う。

 しかし、優しい時間は続かなかった。


『宇宙船アルディアの乗組員に告ぐ。すみやかに入り口のロックを解除して大人しく投降しなさい』


 なぜなら外から威圧的な声が聞こえてきたからだ。


 この船の暴走は外で絶対に騒ぎになってるもんな。とほほ……俺たち難はまだ続くようだ……。


 俺は天を仰いで手で目を覆った。

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