第002話 転生直後に大ピンチになった件

 とにかく状況を整理しよう。


 正面には真っ暗な宇宙空間が広がり、左右の壁には高度な計器類が並んでいて、ピカピカと明滅している。俺が立っている所から少し下に操縦席があり、そこに声の主が座っていた。


 ここは予想通り、宇宙船のコックピットに違いない。


 そして、空中には半透明の四つのウィンドウが浮かんでいる。こちらに向かって飛んでくる三隻の宇宙船と、悪人面の男たち三人がそれぞれに映し出されていた。三隻の宇宙船からビームが発射され、この船を掠めて飛んでいく。


 ここまでの情報を総合すると、この宇宙船はあの男たちが操る三隻の船に追われている状況だ。しかも、彼女の声色を聞く限り、かなり切羽詰まっている様子。


 ――ドォオオオオオオンッ


 俺が状況を把握している最中、轟音と凄まじい揺れが船を襲う。


『右翼の先端に被弾。航行能力二十%ダウン』


 どこからか機械的な音声が流れてきた。


「きゃああああああああああっ」

「うぉっ!?」


 その揺れによって体が振り回される。立っているだけで固定されていない俺は、壁に叩きつけられてしまった。


 その衝撃によって俺は、少しだけ昨日の記憶を思い出す。


 俺は大学から帰り次第、いつものようにDSOをプレイするつもりだったけど、家に帰るなり妹から電話が掛かってきて別のゲームに誘われた。


 それは、最近人気の宇宙を舞台にしたSF系オンラインゲーム『インフィニット・ステラ・オンライン』。通称「ISO」。可愛い妹の珍しい頼みだ。DSOを諦めて一緒にプレイすることにした。


 ISOは科学技術が進歩して人類の生活圏が宇宙にまで広がった世界が舞台で、広大な宇宙そのものがオープンワールドになっている。


 星を開拓したり、星同士で交易をしたり、はたまた星で国を作ったり、宙賊と呼ばれる宇宙の海賊みたいな奴らを宇宙船で倒したり。インフィニットの名の通り、ユーザーごとに多種多様なプレイスタイルで遊べるゲームだ。


 インストールを済ませて妹と合流すると、妹は宙賊を狩りに行きたいと言い出した。我が妹ながら少し血の気が多い。


 俺は最初にプレイヤーに与えられる宇宙船で妹の後についていき、賊が縄張りにしている区域に到達。妹の宇宙船の攻撃によって戦いが始まった。


 初めてながらも宇宙船を駆って宙賊と戦う。しかし、少しずつ慣れ始めた頃、俺は大きなミスをして宙賊に無防備な船体を晒してしまった。そんな隙が見逃されるはずもなく、敵の攻撃に被弾。


 その後の記憶は思い出せない。


 このコックピットはISOで見たものに酷似している。それにこの船を追いかけている宇宙船もISOの宙賊が使用していた宇宙船とよく似た型だった。


 多分……ここはISOの世界だ……


 俺はどうやらファンタジー系のゲームのアバターで、どういうわけか宇宙を舞台にしたSFゲームの世界に転生してしまったらしい。


 粗方状況は飲み込めた。


 とにかく今はこの危機的状況を乗り越えなければならない。せっかく転生したのに、こんなところでお陀仏なんて嫌だ。


 一体どうすれば……。


 今俺にできることを考えてみる。俺はDSOのメインアバターであるキョウ・クロスゲートの姿でこの世界に転生した。


 キョウは十年以上使用しているだけあり、レベルはカンスト。しかも、DSO内でバランスブレイカー中のバランスブレイカーと言われた賢者というユニーク職に就いている。


 賢者とは、ゲーム内で初めて職業全てを最後まで育てた人物が転職できる唯一無二の職業だ。魔法や剣技などの戦闘スキルから、鍛冶や錬金術などの生産スキルまで、ありとあらゆる職業のスキルを使用でき、各種ステータスの伸びも全てが最高ランクで、賢者特有のパッシブスキルや極大魔法なんかも使える。正直言ってチート職業以外の何物でもなかった。


 職業を全部極めるなんて真似をする奴は多くない。それよりもプレイヤースキルを磨いたり、ステータスを研究したりして攻略に精を出す奴の方が多かった。


 そんな中、俺はDSOを遊び尽くすために全ての職業に転職して極めることを繰り返していた。俺は学校以外の時間のほぼすべてをゲームに費やしてきた最古参。俺以上に早く、全ての職業を極めた人間はいなかった。


 船同士の戦いで剣技などの物理攻撃は役に立ちそうにない。生産技術も同じだろう。唯一役に立ちそうなのは魔法だ。魔法なら遠距離攻撃ができる。


 船に乗り込んできた宙賊相手に近接戦闘をするのも一つの選択肢ではあるけど、ぶっつけ本番で人を斬れる自信はない。それに、次の攻撃を受けてしまえば、この船は完全に航行不能になってしまう可能性が高い。


 それなら、ゲームのキャラクターの能力を使えるかどうかも分からないけど、一か八か賭けてみるしかない。


「もう終わりだよぉ!!」


 女の子が錯乱した様子で叫ぶ。


「シールド!!」


 俺は魔法名を唱えた。シールドは敵の攻撃を防ぐ膜を自身の周囲に展開する魔法。今回は宇宙船を覆うようにイメージしてみた。


 その瞬間、三隻の宙賊船から光線が放たれた。

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