第12話

 時刻は午後一時過ぎ。


 冬弥たちは町はずれの農耕地帯にやってきた。


 かつては一面黄金こがね)色だったであろうその土地は、いまや雑草が伸び放題の荒れ地。雑草に紛れて、錆びだらけの田植え機が放置されている。


 荒れ地の中央に、うち捨てられた廃城のように佇むホームセンターが見えた。


「あれがそうか」

「どうしよっか。入る前に一度休憩する?」

「規模的には霊園級といったところだし、このままいっても問題ないだろう」


 と、吉田がいった。


「どうしますの? リーダー」


 前を歩く三人の視線を一身に受ける冬弥。

 

 集団行動はおろか、人の視線にすらいまだ馴れない。


 それでも、ここで悩むのはそれこそ時間の無駄だと思い、直観に従った。


「このまま行こう。日が暮れるまでには帰りたい」


 ホームセンターの入口は、昨日のマーケット同様荒れ果てていた。


 ガラスの自動ドアは割られており、壁はところどころ欠けている。天井にあいた穴が天窓の役割を果たしているのか屋内は比較的明るく、光の当たる場所には雑草が繁茂している。


 地下に空洞があるのか、床が抜けているところもあった。


「ウルカちゃん、足元に気をつけて」

「わかっておりますわ」


 まひるが先頭を歩くウルカに注意を促す。


「いまのところ付近に敵影はなさそうだけど、建物の中央と東端に強い反応が二つある。目的地のスタッフルームは北西の隅だから、西側から迂回していこう」


 吉田がデバイスを確認しながらいった。


 並び的には、ウルカが先頭、その後ろにまひると吉田が横並びになり、最後尾が冬弥だ。


 上から見るとひし形のような陣形である。


「本当に目標物はスタッフルームにあるんですの?」

「それは間違いないらしい」


 冬弥はウルカの質問に答えた。


 盗墓の依頼主は、五年前の大災害の時にここで働いていた女性。


 依頼主は当時ここでレジ打ちをしていたが、都心部から逃げてきた避難者たちがなだれこんできて店内は大混乱。しかも店内の工作機械やガイドロボットも暴走し始め、数人が死ぬとやがて魔物に変貌して人を襲い始めた。


 なかには店の工具を使って戦う人もいたそうだが、依頼主は着の身着のままで外へ脱出。盗墓屋養成学校になる前の高校に避難した。


 その時、スタッフルームに財布を置きっぱなしにしており、その中に入っている家族の写真を回収して欲しいというのが今回の依頼なのである。


「依頼主にとって、唯一の家族との思い出だそうだ。明後日の明朝になったら家族を探しに旅立つらしいから、期限は最低でも明日まで」

「近場なのにどうしていままで放置していたんですの?」

「最近まで家族は死んだって自分に言い聞かせてたらしい。でもどうしても忘れることができなくて、探しにいくことを決意したんだってさ」


 五年かけて決意を固めたのだ。


 依頼主には頑張ってほしいと冬弥は思った。


 たとえそれが、蜘蛛の糸のようなか細い希望であっても。


「そうですの。ま、なんでもいいですわ。はやく回収してボーナスポイントで美味しいものでも食べたいですわ。……あら?」


 ウルカが立ち止まり、後続のまひるたちも足を止めた。


「どうしたのウルカちゃん」

「ここ、ペット用品売り場ですわ……」


 ウルカの視線の先には、首輪や猫砂などが棚に放置されている。


 彼女の言う通りペット用品売り場で間違いなさそうだ。 


「だからなんだい? わかってると思うけど、ここで曲がると中央付近をうろついてる奴と遭遇する可能性が高いよ」


 吉田がデバイスに視線を落としつつ、そっけなくいった。


「でも、ここによれば有用な物資を回収できるかもしれませんわ」


 ウルカはペット用品売り場に意識が向いている。


 三人が再び冬弥を見てくる。


 ペット用品売り場を見ていくか、それとも迂回してスタッフルームを目指すか、その決断を委ねていることは明白だった。


 まっすぐスタッフルームに向かえば危なげなく目標物を回収できるだろう。今回は自由に回収して帰るのが目的ではない。


 とはいえ、物資を回収した方がいいのは間違いない。


 ざっとみたところペット用品売り場はそれほど漁られた様子もない。ウルカのいっている有用なものがなんなのかはわからなかったが、冬弥は寄り道することにした。


 リーダーの指示に従い、一行は棚の間に舵をとる。


 床に散乱したペット用品を踏まないように慎重に進み、ウルカは立ち止まった。


「ありましたわ……!」


 全員が彼女の背後から、彼女が求めていた物を覗き込む。

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